第三話 Jast The Way You Are.
「俺、東野送っていくけど。お前は帰るのか?」
「ああ……。そうする」
「俺一人で帰れるぜ?」
「いいから」
とりあえず無断侵入はホテルに謝っておくからお前達は家に帰れと皆本に送り出されて道を歩きながら、カガリが漸く口を開く。
それを混ぜっ返した東野に、バレットは消えるような声で謝った。
「ごめんな、東野」
「何がだよ。……ってまあ、気にするのは分かるけど。でも本当になんともないぜ?」
東野は肩を竦めた。それよりも、と彼は続ける。
「俺はあいつの方が心配だよ。大丈夫かな。あんなに癇癪起こすタイプじゃねえじゃん」
「……そうだよな」
「お前も、そんな思い詰めんなよ」
東野の手のひらがバレットの背を強く叩く。屈託なく東野は笑う。それが誰にでもできることではない事を、バレットはよく知っていた。
「ありがとう」
「なあ」
言いにくそうに、カガリが口を曲げながら尋ねる。
「お前等、ウチに来る気はねえの? 少佐なら気にしねえよ、ああいうの」
「それはそれで問題があるだろ」
高校の生徒会長兼パンドラのボスの顔を思い浮かべる。あまりよく知らない人だが、カガリたちの驚く顔が観たかったと学校まるごと催眠にかけるほどの人だ。無論、ザ・チルドレンを護るだとか、彼自身の目的もあったのだろうが。
「あれはあれで大変そうだしな……」
「パンドラの連中は歓迎すると思うぜ」
「──だが断る」
がくりとカガリの肩が下がる。それ流行ってンの? と東野が首を傾げた。
「俺はここを気に入ってるからさ」
口にして初めて、すとんと腑に落ちる。バレットは本当にこの場所が、あの家が好きだった。ティムと皆本の問題は、バレットの問題だった。そうであって欲しかったのだ。
ザ・チルドレンがいて、皆本がいて、頻繁に賢木や大人達がやって来て、お互いに「ただいま」「おかえり」と言い合えるあの場所が。
そして自分の横でティムがいて、顔を見合わせて笑う日々が大切だ。
それはバレットの心の底のさえざえとした鉛のように重く冷たい部分が暖められていることを、気付くより先に知っていた。
「大丈夫だよ」
パンドラの家族として過ごすのも楽しいだろう。それでも、今までの年月の重みをバレットは尊く思っている。
「……ま、考えてみろよ?」
バレットの表情に納得したのだろう、カガリが少しホッとした顔をした。
「ああ、ありがとう」
東野を促して二人は角を曲がる。
**
「お前はこっちだっけ?」
「ああ、うん」
少し後ろを歩く松風はぼんやりと頷く。いつもならもう少し威勢の良い彼の声が、今はどんよりと曇っていた。
「……うちもさ、そうだから……なんかどうなのかなって」
珍しく抽象的でぼんやりとした話に、思わず松風を振り返る。アスファルトに落ちた視線は、迷子の子どものように頼りなく揺れていた。
「松風?」
「……都合の良い夢を見てるのって、不幸せなことなんだろうか」
「そうは言ってないだろう。お前のお母さんもお父さんも、納得してのことだから、ティムのこととは違う」
「……そう、だな」
松風は目を伏せた。
ふと、彼がベータ・ギリアムであったことを思い出す。
同時にバックミラーの中で、彼らに手を振る血の繋がらぬ彼らの両親の姿がバレットの脳裏に浮かんだ。内心で歯噛みする。
この”クローン・チャイルド”は、催眠で作り上げた偽りの家族の中に暮らしている。
松風にとっては、自分に重なる話なのかもしれない。東野と先に帰すべきだった。
「……血が繋がってなくても、勘違いの誤魔化しでも、俺、あの人のこともドロシーのことも、家族だと思っていたい」
松風は力なく笑う。足は止まっていた。
バレットに視線を合わせないまま地面に言葉を溢す。
「ティムの気持ち、俺なんかに分かられたくないかもしれないけどちょっと分かるんだ。母さんと父さんが、俺を本当の息子だと思っている夢を、俺が見せられる──」
罪の告白のように、彼は吐き出した。
松風の中に愛されず、何も持っていない子どもの面影が微かに覗く。彼の思考をトレース出来たと聞いたこともある。
「俺があの人たちの本当の子どもじゃないのも分かってるんだぜ。あの人に作られただけのただの道具の俺が、愛されるなんて、間違ってるって思う日もある。──でもさ、でもだよ」
バレットは黙って松風の言葉を待った。
「あの人達が、それで幸せだって思ってくれるなら、お、俺は許されて良いんじゃないかって……」
「松風、お前は誰かの代わりに息子になったんじゃないし。許すも許さないもないだろう」
「うん。でもきっと、ティムもそうなんだ。幸せな夢を見せるっていう役に立てるなら、愛されても良いんじゃないかって思ってしまうんじゃないかな」
役に立てば、愛されても許される。
役に立たないなら、愛されてはいけない。
「……それは……」
催眠を掛けた先で、自分であって自分でない子どもを、幸せそうに愛するイサベルを見てティムはきっとそう思った。
──役に立つなら、愛されても良い。
「あ」
バレットは雷のように閃いた考えに、息を詰めた。
そうだ、なぜ気付かなかったのだろう。
ティムが不安定になりつつあったのは、黒い幽霊騒動が落ち着き始めた頃からだった。
変動確率超度の高い災害が減り、ザ・チルドレンは彼女自身の指揮能力で活動できるようになった。そうなるとシャドウ・オブ・ザ・チルドレンのサポート出動が減る。
今度は普通の特務エスパーの仕事も見てみるかと、災害予知の阻止現場に連れ出されたのが、件の動画に撮られた現場だ。
ティムはきっと焦っていた。怖れてもいた。
役に立たなくなることへの危懼が、ティムの根底にはまだ残っている。
家族もない、過去もない自分たちだから、それはどうしてもつきまとう恐れだ。
数年前にもそう思った事がある。超能力で役に立てなければ、ましてや自分たちは、と。まだ中学生だった頃の話だ。
その焦りと恐怖のピークに、この騒動だったのだろう。もっと早くに気付いていれば自分にももっと出来ることがあったのだろうか。
「……馬鹿やろう」
「バレット?」
「……お前も、そういうの思ったらちゃんと口にしろよ。俺でもチルドレンにでも、誰でも良いからさ」
「お、おう。お前が優しいとちょっと怖いな」
少し紅くなった松風と別れ、バレットは足早に道を急ぐ。
秋葉原にこの間行くはずだった店がある。まずそこに行ってみよう。
と、震えた携帯を見れば、皆本からショートメッセージが届いていた。
──ティムの行きそうな場所に心当たりはないか?
バレットは口元を引き結んで瞼を伏せた。皆本に掛けたコールはすぐに途切れ、彼の声がする。
「皆本さん、俺、アキバのアイツの好きな場所探してみます」
「ああ。頼む。でも日が暮れたら一度家に帰ってくれ。もしかしたら帰ってくるかも知れない」
皆本の声はいつも通り落ち着いたもので、バレットは胸をなで下ろした。それで自分が焦っていたことに気がつく。
「──バレット」
「は、はい」
ふ、と沈黙が降りる。皆本にしては珍しい電話越しの沈黙にバレットは首を傾げる。
「皆本さん?」
「──いや……。一度家に帰っていてくれないか? 閉め出したりしたら大変だ」
「……了解です」
暫く、通話のきれたスマホの画面を眺めて、バレットは息を吐いた。
**
何万人もの人が作り出す地上の星空が、眼下に広がる。
──でもその中に俺はいない。
ビルの谷間を吹き抜けてくぬるい初夏の風が、すうすうと胸をを冷やしていく。
誰も居ない屋上で、ティムはぼんやりと手すりの上に立って地上を眺めていた。
そんなに息子が見たいのなら、夢の中で見てくれ、と思わず放った催眠の中の親子の姿が、ティムの網膜に焼き付いて離れなかった。
きっと普通の親子というのはああいうものなんだろう。慈しみ、愛し合い、触れあい、言葉を交わし合うものなのだろう。普通なら誰だって得られるのだろう、子ども時代の夢。
催眠を掛けた本人が呆然としてそれを見た。
──懐かしさなんてなかった。
それどころか、感じたのはただただ途方もない違和感だった。
なまじリアリティを持たせた催眠だったからいけなかったのだろうか。二次元のようにはっきりと現実から隔絶された第四の壁がなかったから、良くなかったのだろうか。
庭先の芝生の上を撫でる青い匂いの風、菩提樹の木を揺らして空に巻き上げていく。白い雲に幼い少年が手を伸ばす。その手を掴む、自分の何倍も大きな手のひら。
少年は、ティムとそっくりな顔で、全幅の信頼を置いた母へ笑顔を向ける。
“母さん“!
“ティム”
と、彼女はとろけるような笑みで微笑みかける。それだけで、彼女の愛が溢れるほどに注がれているのが分かった。
アニメでも漫画でもゲームでも、感じたことのない違和感に、何よりも恐怖を感じた。
知らないものだった。
ティムの過去のその奥に、存在しないものだった。
絶対に違うのだ。この女は。
手すりに腰掛けて、ティムは瞑目した。
イサベル・ムーアと名乗るその人が、”ティモシー”と抱きついてきたときから感じていた胸の奥が燻る感情をそのときにはっきりと理解した。
それは穴のない場所に積み木を填め込もうとしているかのような違和感だった。
──アンタ、最初からずっと、ひとりぼっちじゃんか。
朧気な黒い霧の向こうで、そう告げる少女の凜とした声がする。
きっとそうだった。自分はきっと、失われた過去のそのまた向こうでも一人ぼっちだった。
縛り付けていた恐ろしい腕から逃がされ、チルチルに出会い、バレットに出会い、シャドウ・オブ・ザ・チルドレンとして大きな白い翼の持ち主たちの手助けができるようになった。
その上、「ただいま」と帰る場所と、自分を信じてくれる大人達まで付いてきた。
家族でもないのに、自分に家族のように接してくれる人たちを手に入れたのにその全てを、自分は自分の手で放りだしてしまった。
大切なのに。大切なことを、誰よりも分かっていなければいけないのに。どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。コントロールできない衝動が、ティムの大事なものを壊していく。
能力までぶつけてしまった自分を、誰ももう許してはくれないだろう。
石を抱え込んでいるかのように痛む胸を押さえるように、ティムは踞った。
失ったはずの過去が、目をそらし続けている過去がティムを追い詰めていく。
がらんどうの心のうちに、凍て付く隙間風がひゅうひゅうと吹いて身体ごと冷やしていくような、言いしれぬ衝動が襲い、ティムは歯を食いしばって身を縮こめた。
バレットも、ザ・チルドレンもどんどん大人になって道を自分で決めて先に進んでいくのに、自分はこんなことで癇癪を起こして、あの優しい人を、友人達を傷つけている。
自分だけが同じ場所で足踏みをして、一歩も進めていない。
このままじゃまたひとりぼっちだ。
「どうしよう……」
拳を額におしつける。
「どうしよぉ……」
こんなに目の前には数え切れないほどに電気の付いた暖かな部屋があるのに、ひとつとしてティムを迎えてくれる部屋はないのだ。
帰れない光になんの価値があるのだろう。
──そうだよ。だからいつまでもボクはクローゼットから出してもらえない、悪い子のまま。
小さな子どもの声が背中から聞こえた。思わず振り返ればまだ五つにも満たないくらいの子どもがじっとりと光のない目でティムを睨め上げていた。
まるでその場にそれが居るような存在感に、ぞっとする。
「っ、しまった……ッ!」
気付かぬうちにリミッターがいつの間にか警戒色に光っている。超能力の暴走だ、自分自身に催眠を掛けている──と判断するより先に、視界の端から見えている景色が切り替わっていく。
「ティム!」
来て欲しいと思った人の声がするのも暴走の所為だろうか。心臓が跳ねて、ティムは咄嗟に怒鳴る。
「来るな!」
本物でも偽物でも、暴走した超能力に、彼らを巻き込みたくはなかった。
**
「催眠能力の暴走か」
──念動力と違って催眠能力は精神感応系の複雑な能力だ。
PKは能力を体外に放出するタイプの暴走が多い事に比べ、精神感応系のESPの暴走は自らの精神に影響するものが多い。
精神感応の自他境界混濁や、遠隔透視能力の視覚放棄、感情共有能力の感情発露減退はその最たるもので、催眠能力の自己催眠や本人の意に染まぬ幻覚共有などもそれに含まれる。
一時は超度七相当の悠里の催眠をも封じ込んだティムだ。
嗅覚が、摩天楼の街に薫るはずのない青々とした草いきれを伝え、視覚は夜の端に底抜けに青い夏空を混ぜる。聴覚に聞こえるのは──泣き声。
典型的な催眠能力の共有幻覚の暴走だ。
「ティム!」
屋上で膝を抱え小さく丸まっているティムに、皆本は声を張り上げた。びくりとティムの肩が揺れる。まだ五感は外に向いている、と安堵した瞬間に、彼の大きな声が屋上に響く。
「来るな!」
強い拒絶と共に視界の端で踊る幻覚のリアリティが増す。その声が皆本の足を止めた。
──拒まれている。
はっきりと叩きつけられた拒絶に、皆本は足を竦ませた。
いつもそうだ。自分はいつも、正しい道を探す途中で迷い続けている気がする。ボタンを掛け違えたままのシャツのような違和感が皆本の人生には取り巻いていた。自分はボタンを掛け違えたまま、人のボタンばかりを直そうとしているような。
人をよく観察しているティムだからこそ、皆本の後ろ暗さに気付いたのではないだろうか。
皆本は小さく息を吸って、首を振った。
それでも、自分のことがどれだけ気にくわなくても、彼をこのままにしてはいけない。
「……っ、ティム!」
ティムが居るのは屋上の端。手すりにもたれかかるように踞っている。膝を抱えている姿は、今にも風に吹かれて落ちてしまいそうな不安定さがあった。早く安全な場所に連れて行きたいが、自己催眠状態の催眠能力者が動揺すれば、催眠状態が悪化する可能性もある。
皆本は深く息を吸い、大きく吐き出した。
──駄目だ……。僕は今冷静じゃない。
無理矢理現場運用主任の頭を働かせる。
暴走している超能力者の制圧は何度も経験している。
まずは落ち着かせる。ティムと話をしよう。ティムが決めたことの背を押す。それが皆本に出来る唯一のことだから。
携帯を起動させて、賢木にメッセージを送る。位置情報も付け加えれば、きっとすぐに駆けつけてくれるだろう。
催眠能力者の暴走にECMは使えない。まずは、彼の安全の確保。
膝を抱えるティムは、おそらく深い自己催眠状態にある。手すりの隙間から手を伸ばして、彼の服を掴む。暴れることがあっても落ちないように、催眠に掛かる前に急いで抱え込む。
パッ、と視界が切り替わる。薫たちに聞いた通り、まるで別の世界に入りこんでいるようだ。
「ここがティムの世界……」
シルバーブロンドの髪、蒼い瞳の幼い子どもが、手にセルロイドの古ぼけたおもちゃをぶら下げながら皆本を見上げていた。
**
シルバーブロンドの髪の子どもは影の落ちた表情のまま、じっと皆本を見上げていた。形状記憶シャンプーできっちりと固められた髪ではないが、つんつんと跳ねる髪の毛は彼の面影を残している。
少し周りを見る。ティムの催眠の中は閑散として暗い。アダムの時のような攻撃的なイメージか、ティムのよくやっているゲームのようなイメージをしていた皆本は少し拍子抜けする。
「ティム?」
子どもは皆本に名前を呼ばれて、目を丸くした。それから泣き出しそうなくらいに眉を下げる。
──話さない。話せない? ティムの精神に近い場所にいるんだから、日本語は通じると思うんだけどな……。
「僕と話をするのは嫌かい?」
ティムは微かに首を横に振る。それにどれだけ皆本が胸をなで下ろしたか、きっと彼は知らないだろう。
「……ボクはここから出られないんだ」
あどけない子どもは小さく呟く。そう告げられて初めて、今居る場所が何か小さな狭い場所だったことに気がつく。二人の前に、細く糸を引いたような白い光が見える。観音開きの扉の内側に居るようだった。
「どうしてだい」
「ボクが悪い子だから」
「そんなことないさ。ティム、君は立派だよ」
皆本が否定する。子どもは今にも泣き出しそうな顔を隠すように踞った。
「ボクは”ティモシー”にはなれない。だってボクは、ボクは──」
この恐慌状態に、皆本は見覚えがあった。丁度数年前、アダム少年が記憶の奥の”自分でも思い出したくないこと”を思い出しそうになったときの拒絶反応だ。
「ティム!」
皆本の声に応じて、ドアが開く。ドアから吹き込んでくる突風が皆本とティムを吹き飛ばそうとする。思わず彼を抱きかかえて、その小ささに余計に力を込める。
かつてのアダムは念動力、その能力は体外に放出するが、ティムは催眠ベースの合成能力者だ。自己催眠の暴走に寄る昏睡状態、植物人間になってしまう高レベルESPも居ないわけではない。加えて賢木が居るとはいえここは高層ビルの屋上だ。もし現実世界で彼のPKまで暴走すれば落ちてしまうかもしれない。
「ティム、落ち着いて。大丈夫だ、僕が付いてる」
ティムを抱きかかえながら開けたドアの向こうを見る。その外の世界に皆本は息を呑んだ。
「だってボクはうまれたときからひとりぼっちだったんだ……」
寄る辺のない子どもの悲鳴が、皆本の胸を劈いた。
曇った硝子越しのぼやけた空。暖かみのないポリ塩化ビニルの灰色の床に散らばっているのはどれもが壊れた子どものおもちゃだった。酒瓶やゴミと一緒に散らばるのは片足の取れた人形や翼の折れた飛行機だった。
古い形のTVからは日本語ではない言語の怒鳴り声とアニメの音声が混じり合って聞こえる。
ティムのおもちゃたちはむっくりと起き出して踊る。もぎ取られた手足は生えて、翼は元に戻り、ティムの意のままに踊る。悪夢のような非現実的な光景だった。
壊れた部分は催眠で補って、念動力で動かして、子どもはどれだけの間、一人ぼっちで遊んでいたのだろう。
皆本は幼い子の小さな肩を抱きしめながら奥歯を砕けそうなくらいに噛み締めた。
失われていても、覚えていなくても、長く共に暮らしていれば見えてくるものがある。それはふとした時にぽろりと漏れる日本のものじゃない言葉だったり、無意識に避ける事柄だったりといった些細なことから、どうしても導き出されてしまうことだ。
「ティム……」
このひっくり返されたおもちゃ箱のような部屋の、この暗いクローゼットの中の小さなティムが、どういう経緯で黒い幽霊の手に落ちたのか等わかりきっている。
皆本の視界の端で、派手なドレスを着たやつれた様子の顔の分からない女性が、黒スーツの男に金銭を持たされていた。
そして、ティムはその男に手を引かれて赤茶けた団地を出る。ティムは幾度も振り返るのに、もう女性の姿はどこにもなかった。
その小さな背に、憎悪の籠もった悪態を吐くのは、皆本の腕の中に居る子どもだった。
「──ボクは嬉しかった。初めて喜んでくれたと……。そうだ……ボクは嬉しかったんだ。なんて、なんて馬鹿なガキ! オモチャをくれるって、一緒に遊んでくれるって──黒い幽霊に操られることがどんなことかも知らないで──」
光景が変わる。
どこか赤道近くの乾いた熱風が皆本の髪を巻き上げる。アハハハ! と狂気を孕んだ楽しげな声。
ティムが呻きながら上を見上げる。視線を追えば、戦車を変形させて、悪魔のように笑う少年が、楽しそうにヘリコプターを落としていた。
その中に人がいることなど気付かずに。
一つの駐屯地が一人の少年の手で破壊され尽くしていく。
幼い少年は、ただ楽しくて仕方ないと笑っていた。
「ボクは、ボクは──」
高校の制服を着たティムの限界まで見開いた空色の瞳は悪魔のように笑う子どもを見上げている。震える唇も、真っ青な顔色も、何もかもが痛ましい。
「ティム! もう見るな……っ」
彼の肩を掴んでひっくり返す。きつく頭を肩に押しつけた。とうに腕の中に収まる子どもではなくなった少年は、棒立ちのまま、それでも皆本に抗うことなく額を肩口に埋めていた。
「ティムのせいじゃない、君にはなんの責任もない」
「でもボクがやったことだ……」
「操られてやったことに責任はない」
きっぱりと否定しても、ティムはそれを拒む。その様子に、皆本はふと違和感を感じた。
彼の行動は全て、自分を責め続けている。自分が、自分の所為で、と自分を責め続けている。
イサベルがやってきたこと、彼女に思わず掛けてしまった催眠で、彼の中で危うい均衡を保っていた何かが崩れてしまったのだろう。
彼の危うさを分かっていながら、時が快活してくれるのを待っていた自分が居ることを皆本は分かっていた。いや、もしかしたら時が解決したのかもしれない。
だが、イレギュラー発生してその影響を正しく組み込めなかったのは皆本の落ち度だった。
「……君は何も悪くないよ」
バキ、と世界から音がする。
「わからない、どうしよう……。どうしよう、皆本さん……」
黒い海が水位を上げて皆本とティムを呑み込んでいった。
「自己催眠が強く……っ、ティム!」
──なんでこんなこと言っちゃったんだろう。
──どうして、素直にお礼を言えないんだろう。
──良い子にしてなきゃ、ここを追い出されたっておかしくないのに。家族じゃないんだから。なのに……自分がコントロール出来ない。どうしよう、ごめんなさい。バレットにも迷惑をかけちゃってる。
──役に立てなかったら、僕には居場所がない。
──出て行った方が、きっと面倒がなくなって楽になるはずだ。だって、血も繋がってないやつの面倒なんて、見るの面倒だもん。
──どうして、「好きにして良い」って言われてこんなに不安なんだろう。
──間違ってるのは分かってる。でも、この人に催眠をかけ続けたら、僕はティモシーの代わりにここにいてもいいんじゃないか。
微かに聞こえてくるのは、ティムの深層心理の声だった。
「ティム。僕の話を聞いてくれ!」
どうか通じて欲しい、と心から思いながら皆本は口を開いた。
「まずひとつ。……影チルの任務が減ったのは、僕が君たちに……ザ・チルドレンにも君たちにも学業を優先して欲しかったからだ。君たちに頼まれもしてないのにすまなかった」
僕は高校生活っていうのをしたことがなくて、とても楽しいと聞いていたから、楽しんで欲しかった。僕自身、君たちの話を聞くのが楽しかったんだ。
「二つ目……紫穂とかは知ってるんだが、実は僕は君たち二人くらい一生養えるくらいの貯蓄はある。このあいだボナソニックにソフトウェアの技術提供したら結構ライセンス料をもらってね」
ごほん、と咳払いをして照れくささを誤魔化す。本当はこんなことを言うつもりはなかったのだが、ティムの不安の原因を取り除けるのならば言う価値はあるだろう。
「君たちの負担になるといけないと思って黙ってたんだが……。本当はね、特務エスパーなんて辞めたっていい。君たちが成人するまでの面倒くらいなんてことはないんだから。……これはちょっと、君のためにならないから言いたくないんだが、正直に言えば……、深夜までゲームしてたって、一日中アニメ見てたって、引きこもりになってたって君たちが楽しく元気に過ごしてるなら本当は良いんだ! 身体に悪いから口うるさくは言ってしまうけど」
「皆本さん……」
皆本は漸く姿を現したティムの手を取る。
彼の道を整えることばかりに夢中になって、肝心の彼を見ていなかったことを思い知らされる。
ちゃんと言葉にして、思いを伝えなければ、肝心なものは伝わらない。
「君の気持ちを聞くばかりで、僕の気持ちをちゃんと言ってなかったな。すまない、ティム」
彼に判断を委ねるよりも前に、彼に示さなければならなかったのだ。皆本はティムをまっすぐに見つめた。
「ティム。君が望む場所へ、君自身で選んでどこまででも進んで欲しい。僕はずっと君の帰る場所にいるから」
ティムの目が大きく見開かれた。
「僕は君が選んだ道なら、何をおいても応援する。でも、何処へ行っても、いつまででも、いつだって、帰っておいで。僕は薫や葵、紫穂、バレット、そして君の帰る場所でありたいと思ってるよ」
息を呑み、呆然とするティムの手を握る。
「だから、帰ろう。ティム」
──僕たちの家に。
ティムの青い目が膨れあがるように潤み、瞬きの拍子に大粒の涙がぼたりと零れた。
初めの涙が零れてしまうと、あとはもう止めどがなく丸い目の縁から頬を涙が滑り落ちていく。
ひく、と喉が引き攣れた音がする。溜まらなくなって彼を抱き留めると、胸に縋る彼の嗚咽が大きくなった。
どれだけ、追い詰められていたのだろう。皆本もたまらない気持ちで彼の背をあやしながらはたはたと涙をこぼした。
「……さあそろそろ帰ってこいよ、泣き虫坊や」
どこからか穏やかな賢木の声がして、するすると視覚が戻っていく。
夢から覚める時間だった。
そこは屋上の上に変わりないが、中央の出入り口近くにティムと纏めて賢木に抱え込まれていた。
「賢木」
「おう、戻ったな二人とも」
「は、い」
催眠の中で散々泣いていた名残が、現実のティムにも影響していたらしかった。賢木のジャケットのいくらかは濡れているし、ティムは瞬きをする度にぱたぱたと涙が零れていく。
「う、え……」
慌てて袖口で拭おうとするティムの手を押さえ、賢木がハンカチを押し当てる。
「擦るな。菌が入っちまうだろう」
ティムは黙って頷き、ハンカチを顔に押し当てる。
「帰ろうか、ティム」
「……っ」
うう、と獣の唸り声のようなものを上げて、ティムが踞る。
「ごめんなさい……っ」
「謝らなくていいんだ」
ティムはしゃくりあげながら、首を振った。
「あの、あの人に、催眠かけたやつ……本当は、眠らせて、良い夢を見て帰ってもらおうと思ったんです、でも、でもあの人、夢から覚めなくなっちゃって、俺、怖くて……っ」
「……催眠は、自分が望むものなら強く掛かる。バフがかかっちまうんだよ。……怖かったな、ティム」
賢木がティムの肩を叩いて穏やかに諭す。
「迷惑、ばっかり、おれ……皆本さんにもセンセイにも……」
「……君たちに関わることで、迷惑だと思ったことはないよ」
しゃくり上げる声のろれつが回らなくなっていく。
アニメや映画で泣いているのはいくらか見ているが、それでもティムはあまり感情的に泣かない質だ。
普段しないことをして、疲労が溜まってしまっていたのだろう。超能力中枢の暴走と相まって睡魔のために意識が朦朧としているようだった。
「ティム、帰ろう?」
背中を叩いてあやしながら、皆本が促す。
「……帰っても良いんですか?」
涙声で、恐る恐る問いかける彼に、皆本ははっきりと頷いた。
「君が望む限り、何処に行ってもいつでも、何時まででもね」
ふつりと糸が切れたように眠りに落ちていく。
まだ小さな身体を背負い、皆本と賢木は顔を見合わせて、ほっと安堵の溜息を吐いた。
「……賢木。バレットやチルドレンには……」
下っていくエレベーターの中、背負ったティムを揺すり上げながら、隣で黙りこくっている友人に尋ねる。
「薫ちゃんたちがなんとなく察してるみたいだけど、こっちでなんとかするって言っといたよ。バレットにもお前等を見付けたときに連絡してる。寝とけって言ったけどな」
起きているだろうな、と皆本も思う。きっと心配で寝れないだろう。
賢木がタクシーをアプリで呼び出しながら、片手でティムの髪を梳いた。
「来てくんなかったな」
後悔と悲しみを固めた声に、皆本は何も答えられなかった。不甲斐なく思っているのは皆本とて同じ事だ。
都会の夜の喧噪から隔絶されたタクシーの中は沈黙に満ちていた。互いにそれを許した。運転手へ住所を伝えた後は、ただティムの寝息だけが聞こえていた。
滑るようにマンションの前にタクシーが止まる。案の定家の電気は点いていた。
「俺がおぶっとくよ」
「分かった」
賢木がティムを背負い上げて、重くなったな、と呟く。
「初めて会った時は、まだ十才にもなってなかったし、軽くて小さかった」
負ぶった事もあるが、賢木の背にちんまりと乗った子猫のようだった少年はもういない。賢木も一苦労するくらいにはもう少年の枠を飛び出して青年へと成長しようとしている。
「ああ、本人は成長期が遅いのは気にしてるみたいだけど」
「隣のバレットがにょきにょき伸びてるからな……。あ。でも俺の背を抜かすのは許さねぇよ?」
お互いに割合日本人にしては高身長の部類になる。だが、バレットもそろそろ賢木の背に届きそうなくらいに伸びていることだし、あり得なくはないだろう。
余程疲れていたのだろう、ティムはすうすうと眠っていた。
「──ただいま」
玄関を開けばすぐに、リビングでがたっと動く音がした。切羽詰まった顔をしたバレットが廊下のドアを叩き開ける勢いで飛び出してくる。
「あっ、皆本さん、センセイ、おっ、おかえりなさい、ティ、ティムはっ」
「大丈夫、寝てるだけだよ」
真っ青な顔をして狼狽えるバレットの肩をたたいて宥める。賢木に負ぶわれたティムの寝顔を見て、ようやくほっとした顔をする。
「心配掛けたな」
「いえ。あの、ごめんなさい……俺ティムが……」
「バレットが謝ることじゃないさ。友達と心配してくれてたんだろう?」
唇を噛みながら、バレットが頷く。
「もっとちゃんと話を聞けば良かった……」
「今からでも何も遅くない。待っててくれてありがとうな」
袖口で滲んだものを拭ったバレットがティムを受け取る。軽々と担ぎ上げるのをみて、賢木が漸く本当に口元を緩める。
「とりあえずもう寝てしまおう。君たちは明日も学校があるんだからね」
バレットとティムが部屋に戻るのを見送る。
今日は共に寝るようだった。
「賢木」
玄関からまだ靴も脱いでいない友人を手招く。
「珈琲を淹れてくれよ」
ぱち、と賢木の目が見開かれて、すぐにくしゃりと歪む。
「……ああ」
自分も相当な顔をしている自覚はあった。
**
ぱちりと目が覚める。
すぐ横に人の気配がして、ティムはぎょっとしたが、鼻を擽る硝煙の匂いにバレットだと分かる。恐る恐る横を見れば、少し目の端の赤いバレットが寝息を立てていた。それで、ここがここ数日寝起きをしていたホテルではないことが分かる。
家に帰ってきている。
それだけで、目が眩むほど安堵している自分がいる。
瞼が重くて熱い。その上喉がからからに乾いていた。
何かとんでもなく長い夢を見ていたようで、憑きものが落ちたように胸の奥に蟠っていた焦燥感が落ち着いている。
バレットを起こさないようにそっとベッドを抜け出す。
超能力の暴走が始まってからの記憶が曖昧だった。恐ろしい夢の中で藻掻いていたら、いつの間にか皆本と賢木に子どものように抱きかかえられていた。何かいろんな事を喚き散らした挙げ句に、泣き疲れて寝てしまったのだろう。
顔から火が出そうだった。自分が火野のような発火能力者だったら大惨事を起こしてしまいそうだ。
──帰ろうか。
皆本にそう言ってもらえただけで、何もかもが許されたような気になった。孤独も、恐怖も、自分の後ろから追いかけてくる幽霊の過去も、やり直しがきく事柄になった気がした。ここ暫くずっと感じていた足下が覚束ない焦燥感がなりを潜めていた。
おそらくはそのまま眠ってしまい、賢木か皆本が運んできてくれたのだろう。羞恥で暴れ出してしまいたい気持ちをなんとか抑えて、ティムはそっと部屋のドアを開ける。
暗い廊下にオレンジ色の光が落ちている。リビングの灯りがまだ点いていた。
その向こうから低い声の会話が聞こえる。賢木と皆本の声だった。
ティムは足音を忍ばせて、そっとリビングの扉を開く。
リビングのテーブルにはラフな部屋着姿の二人が腰掛けて向かい合っていた。ふわりと香ばしい珈琲の匂いが鼻を擽る。
「ティム?」
丁度正面にいた皆本と丁度目が合う。驚いた声に、びくりと肩が跳ねて、ドアが開いた。
背を向けていた賢木がぱっと振り向いて半身をドアに隠したままのティムを見つめる。
「起こしたか?」
「い、いえ」
「顔が赤いな……」
立ち上がった皆本が駆け寄って、心配そうな顔で額に手を当てる。ひんやりとした大きな手がティムの熱を測る。その声音には憤りの欠片もなく、ティムの胸が不思議な熱いもので詰まる。
手を引かれてソファーに座らせられ、その前に難しい顔をした皆本がしゃがみ込む。
「熱はないか。寒気は? まだ夜は冷えるしな……体調悪くなったら言うんだぞ」
隣に腰掛けた賢木が、ティムの額に手を翳して透視する。
「……超能力中枢も落ち着いてるな」
──良かった。
吐息を漏らすような小さな安堵の声。取り繕った軽やかさではなく、彼本来の深い情がそのまま零れてしまったような声だった。
胸を塞いでいた熱いものが、ぐっと競り上がってぼろりと目から零れる。
「ティム?」
慌てた様な二人の声にも、止めることもできず、熱い滴がぼたぼたとソファーを濡らす。
うえ、と子どものように漏れた嗚咽に、ティム自身がぎょっとする。何か縋るものが欲しくて、目の前の袖を掴む。
「ど、どうした……?」
「と、止まらない、っ、です……ごめんなさい」
大人二人が顔を見合わせて、ふ、と笑う。それで更に涙が零れる。
「そんなに泣いてたら干涸らびるぜ」
賢木がくすくすと笑い、キッチンからフェイスタオルを持ってきて押しつける。
「賢木、水もくれ」
「おう」
グラスに注がれた水を飲み干す。冷たくて渇いた喉に染みこむようだった。
「大丈夫大丈夫」
皆本が赤ん坊をあやすように背を叩く。
ぼろ、とまた涙が溢れてタオルに染みこんでいく。
「ごめんなさい……」
「ティム、僕らは一滴も血は繋がってないな」
童話を語り聞かせるような声だった。
「ザ・チルドレンがうちに飛び込んできて、それにちょっと慣れたと思ったら影チル。それからちょっとの間京介。そりゃあ大変だったよ。十才の女の子の扱いなんて分からないし、中学生の男の子の扱いも、なんなら年上の友人の扱いだって僕は知らなかった。親になったこともないし、兄弟がいたわけでもないし。僕自身学校って十才くらいまでしか経験がないわけだし」
賢木がにやりと笑って肩を竦める。
「でもさ」
ふわりと皆本が笑った。
「今思ったら、全部楽しかったよ。一緒に暮らしてて、良いことがあったら君たちの好物でも作ろうって考えて。ひげそりの使い方なんて教えたりしてさ。僕はあんまり完璧な保護者とは言えなかったけど……」
ティムは思わず首を振った。
成長痛に呻くバレットに冷えピタをもっていったり、一緒にB級映画を見たり、遊びにいったり、寝込んだ時には看病したり、三者面談にも来てくれた。
「君が超能力者じゃなかったら、会えなかったかもしれないね。でも、僕らは出会って一緒に暮らしてもう何年も過ぎた。今はもう、僕は君自身を大事に思っているよ」
どうかそれは疑わないで、と皆本の手がぎゅっとティムの手を握る。
昔から変わらず、大きな手のひらだった。
ぼろ、っと収まりかけていた涙が再び零れる。
「止め方分かんなくなっちまったなあ」
笑いを含んだ柔らかな口調で、賢木がティムの肩を宥める。
「俺もだよ。お前達のこと、弟みたいに思ってるんだぜ。これでもな」
乾いた喉に染みこむ水のように、弱っていた心に染みこむ彼らの慈しみがティムを真綿のように包んでぬくめていく。
グラスが手から離れ、担がれる感覚。
うつら、うつらと意識が睡魔に呑まれていく。
ぼすんとベッドに戻された拍子に少し目が覚めたティムの耳に、皆本の声がするりと入り込む。
──……ごめんな。
聞こえもしない筈の小さな小さな声が、初めて聞く苦しげな色をしていた。
ぱっと目を開く。
眠ったふりのままで、しとしとと枕を濡らしっぱなしのバレットの顔が目の前にあった。
二人の狸寝入りには気付かない手のひらがバレットとティムを優しく撫でて音もなくドアを閉じていく。
「おやすみ」
薄暗い室内で、バレットが鼻を啜る音が密やかに聞こえる。
どれだけ心配をかけていたのか、漸くはっきりと自覚する。
「ティム……」
バレットの腕がティムを抱き込んで、押し殺した嗚咽が肩口に消えていく。
ティムもまた、堪え切れなかった涙がぼろぼろと彼のシャツを濡らしていく。
もう一生分くらいに泣いて、それでももう胸の奥のがらんどうも、すきま風もない。
赤ん坊のように泣き疲れて眠る、その寝入り端の夢とうつつの境で、ティムは思う。
──ああ、大丈夫なんだ。
愛されてもいいんじゃなくて、ボクは愛されているから。
夢の中で、クローゼットの中の子どもはそこを飛び出しておもちゃ箱の中で大事な人たちと遊んでいた。
エピローグに続く