骸骨のひとりごと

 長い長い日々でした。
 毎夜のように、都合の良い夢をみては現実に打ちのめされる。波間に小さな鯨の頭を見て、耳に彼らの歌声を聞いて、その全てが幻だと突きつけられるあまりにも生々しい現実。
 夢というのはシロップの海のようなもの。溺れて死んでしまえばどれほど幸せだったかわかりません。夢と現実の境がわからなくなった年も、きっとあったでしょう。──その頃のことはあまり覚えていないのですけれど。五十年の内、本当はほんの少しだけ記憶が曖昧な時期があります。心が死んでいたのかもしれません。
 けれど、死んで骨だけで蘇って、たった一つのチャンスをふいにできるはずもない。男が一度、必ず帰ると言ったのだから。
 ヨーキ船長の、仲間達の思いを背負って約束を果たしに行かなければならないのですから!
 船室に刻んだ月日の傷跡。骨になっても誰が誰だかわかるように印をつけた仲間達。
 調律を欠かさないピアノ。バイオリオン。チェロ、コントラバス。時折静かにかき鳴らしては、苦く笑ったものでした。
 楽器で心は偽れません。
 さみしいと、辛いと、死にたいと。心の内が素直に響いてしまう楽器をいつしか楽器を保つ最低限しか弾かなくなりました。五十年でずいぶんと腕は落ちたかもしれません。

 
 でも今は違う。
 五十年の夜を越え、私は太陽と出会いました。
 ねえラブーン。
 あなたに会える日はきっと近い。