「相変わらずだねえ」
「そうだなァ」
修行を終えてお茶を淹れる技まで極めてきたらしい鶯丸の茶を啜りながら兼定派の二振りがほう、と息を吐く。
鶯丸はおや、と首を傾げ、丁度同じこたつに入っていた山姥切長義も首を傾げる。
「あれ、相変わらずでおさめていい話なのかな」
「極めてからは見なくなったけど、顕現したてなんて毎日毎日……」
歌仙がしみじみと呟く。
「俺が顕現したときには、仲良く見えたがな」
「鶯丸がきたときにはもう随分落ち着いてたからね」
「へえ……。その話聞きたいな」
山姥切が珍しく身を乗り出し、歌仙はふわりと微笑む。
「そうだねえ……」
「あれだろ、石切丸と出陣して、十戦くらい誉れを一回もとれなくて泣いて帰ってきたやつ」
「えっ」
ぶふ、と音を立てて山姥切が吹き出す。手で顔を隠しているが肩が震えているのでわかりやすい。
「泣いて?」
「あったあった! 三回ぐらいなかった? 石切丸が慰めながら帰ってきたね」
「『ごめんね、ごめんごめん』って石切丸が何故か謝ってて、二振りは石切丸に謝るなってまた泣いてるンだよな……」
「傍目に見てるとめちゃくちゃ面白かったけどな。隊長してた陸奥守と笑った」
「最終的に石切丸も慰めるより励ますようになってね」
「『今日も誉れとれなかった』ってべそかいてる二人の背中ばんばん叩いて、『私より速く敵を斬ればいいだろう。できるできる』だっけか」
「あったねえ」
「ああ、それは俺も一度見たことがあるかもしれんな。俺がきたときだから……蛍丸だったが」
鶯丸がけらけらと笑う。
「あはは。ね、他にはないかい」
「これは俺が光忠から聞いたんだが、唐揚げの日に食べ損ねて盛大に拗ねたって?」
鶯丸の言葉に和泉守と歌仙も吹き出す。
「唐揚げの日に?」
「あったな。あったあった。拗ねたってか、凹みまくったやつ」
「第五回くらいで、彼らにとっては二回目くらい?」
「たしかそうだぜ。あれだ、博多あたりを進んでたとき、二振りともが重傷で手入れ部屋はいってたんだ」
「一応言わせて欲しいんだが、ちゃんと彼らの分は全種類一皿分僕らは残してたんだよ。ちゃんとつまみ食いから守り通してね」
「流石にとりわけた分は摘ままねェよ」
「え、取り分けててくれたんだよね?」
「ちゃんとね」
歌仙が頷く。
「手入れが開けて、夜食代わりにおなか空いてるだろうって、取り分けてた唐揚げを出したんだよ。そしたら二振りともめちゃくちゃ落ち込んでね。一体どうしてそんなに落ち込んでるのか燭台切が聞いたらさ」
「ああ、それは聞いたぞ。『みんなと食べたかった』『今日が楽しみだったのに』だったか」
「えっ、何それ可愛いな」
「可愛いだろう。僕も燭台切も可愛いなって思ってしまったよね……」
「その時は、手入れに手伝い札を使ってなくてよ、中々手入れを短縮できなかったんだよなぁ」
「それで次の時の唐揚げの日に、二振りがまた重傷になったんだよ」
「そン時だな、あいつらが拗ね倒したの」
「『手入れあとでも良いから一緒に食べる!!』って主張したんだよ。そのときはもうみんな笑っちゃって、そのときからちゃんと手伝い札使うようになったよね。勿体ながって使わなかったからね」
「丁度良かったのかな」
「元寇の戦端が中々進まなくて、あいつらもかなりストレス溜まってたからな。爆発したんだろう」
「短刀の子たちも唐揚げの日逃した日は落ちこむから丁度良かったね」
「ね」
「あとは……、手入れでおやつ食べ損ねてべこべこに凹んだり」
「食べ物関係ばっかりじゃないか」
腹を抱えて山姥切が笑う。
「確かになあ。あと俺が光忠から聞いたのが、畑当番で泥だらけになってとっくみあいを……」
「……なあ」
「ねえ……」
低い声が二つ、部屋の隅から聞こえる。
「おや、二人とも拗ねるのは止めたのかい。里の出陣部隊から外されたくらいで拗ねるのは止さないか。もう顕現六年目だろうに」
「拗ねてなんてない!」
「拗ねてないし!」
「茶飲むか?」
「お茶はいるけど!」
「大体なんで山姥切が食いついてるんだ!」
「偽物くんの恥ずかしい話なんて、お金払っても聞きたいからだけど」
「国広の所為で俺まで暴露されたんだけど!」
「……死なば諸共」
「ハァ!? お一人でどうぞ!」
「茶ァ淹れたぞ」
「ありがとう! 鶯丸のお茶俺大好き!」
「相変わらずだよなァ」
「だねえ」
昔話 完