Promemoria

それが見つかった理由はなんの事はない。
キッチンの上の戸棚を明けたら、落っこちてきたクッキーの缶が、床に盛大にぶちまけてしまったのだ。
まるで慌てて詰め込んだようにはち切れていた缶がばらまいた物は、一見ゴミにしか見えなかった。
一枚一枚に規則性などなく、手元にあったものを適当に使っていたのだ、という男臭い主張が透けて見える。
チラシの裏紙、ちぎられた手帳やノート、カレンダーの裏。まともなメモ帳を使って書かれたものなど、半分にも満たない。キッチンペーパーを見つけた時など思わず吹き出して隣の男に睨まれた。
何故こんなものを集めていたのか、と疑問に思ったのも一瞬で、拾い上げてすぐに理解した。
缶に詰められたゴミのような紙の束には、これまた様々なペン、筆跡で全て何かが書かれていた。
拾い上げたメモを読む。

買い物行ってくるよ。トマトとパスタとチーズとほかにいるもんねーよな?あったら連絡しろ。――イル
砂糖が切れてたからバール行ってくるわ。ほかにいるもんあるか?――ラート
割れたグラスを買ってくるので、留守にする――リズ

小さな紙に走り書きされた買い物メモがあるかと思えば、折りたたまれて仕舞われていたような紙に様々な筆跡の人間が寄せ書きのようにして書いている紙もある。
何か決め事があるのか、必ず走り書きの横には短いサインが付けてあった。

おいおいおい!!誰だ俺の残してたケーキ食いやがったの!しょーがねーなあ、明日までに新しいチョコレートケーキ買ってきたら許してやるぜ?――マジオ
ごめんケーキ食ったの俺だ。明日買ってくるから、誰彼構わず縮めようとしないでくれよ!――ロネ
自分の食物には名前を書けッて言ってんだろうがよ!――ソル

冷蔵庫にソルベが入れてあるぜ――ラート
溶けてんじゃあねえかッ!冷凍庫に入れろッ!――アッチョ

今日釣ってきたスズキを、捌いて冷凍庫に入れてあります!――ペッシ
よくやったペッシ!!さすがだ!――ロシュ
本当にありがたいな……。よくうちのチームに入ってくれた。――リズ

食事当番交代。ロシュ→アッチョ(理由:昨晩のカードの罰)――ロシュ
ディ・モールト美味しいの頼む!――ロネ
魚介類がいい!――ラート
なんかごめんな。手伝うことあったら言ってくれよ――ペッシ
クソっ!てめえら絶対イカサマしてやがっただろッ!今日はアクアパッツアだ!買い物手伝え新入りィ!――G
わかったよアッチョ!――ペッシ

ごみ捨ての当番マジオだぜ?――イル

近所の婆さんに教わったスフォリアテッレ作ってみたから、あとで食べてみて――ロネ

シチリア・ダービーになったぜリズ!久しぶりにセリエA入りすんじゃあねえのかお前んとこのチーム――マジオ
いや、セリエAにはまだ遠いだろう……だが、来年ぐらいにはAに昇格できそうだな。楽しみだ――リズ

ファックーロ!また『ユヴェントス(トリノのサッカーチーム)』が“スクデッドを取り”やがった!――ラート
ふははは!!流石我がトリーノの『シニョーラ』だッ!ステラ三つ目も遠くねえなッ!今日は俺のおごりだッ!我が『ビアンコネーリ』の祝勝パーティだッ!――ロシュ
『ユヴェンティーノ(ユヴェントスのサポーター)』はてめーだけじゃねえかよォーーっ!てめえ、ネアポリスで祝勝パーティなんかしてセリエC降格されそうなジリ貧ナポリ野郎ナポレターノに殺される覚悟は出来てんのかァーーっ!――アッチョ
ちなみに、お前の弟分生粋のナポレターノだからね?――イル

今日の買い出し当番誰だっけ
おいおい、サインしなきゃ誰が書いてるかわかんねえだろ、ローネ――ラート
わかってるじゃあねえか!――アッチョ

ペッシは預かった。返して欲しくば謝罪を要求するッ!――イル
鏡割ンぞゴラァ――ロシュ
割れた分の鏡代はお前の財布から抜くからなロシュ――リズ
まて、まだ割ってねえ!――ロシュ

りず、あとで はなし ある――ろしゅ
こりゃなんだ?しょーがねーなあ――マジオ
これ捨てろ!!!!!捨てると心の中で思ったならッ!既に行動を終えてんだ!!――ロシュ
珍しく前後不覚に酔っ払ったロシュの記念に残しておく――リズ

仕事いってくっけど、俺の猫ちゃんの餌頼むぜお前らァ〜――マジオ
しょーがないなー――ロネ
取り敢えずリーダーと俺らで餌やっといたぜ――イル
グラーツィエ!――マジオ

グラスを割ったのはロシュです――ロネ
そうか、あとで俺の部屋に来るように。ロネ、アッチョ、ロシュ――リズ

冷蔵庫にジェラート差し入れてるぜ。一人一個だけど、早いもんがちだからな――ソル
俺の分まで食いやがったケバッレはどいつだッ!――アッチョ

来週から仕事でヴェネチアに行くことになった。――リズ
土産は『ヴェネチアングラス』だな――ロシュ
いいなーーっ!終わったあとに観光する暇つくれよリーダー。俺は鏡でいいぜ――イル
んー俺はヴェネチアの酒でいいぜ――ホル
そういえば、その頃カルネヴァーレの時期じゃあねえッスか?帰ったら是非土産話きかせてください! ――ペッシ
じゃあリーダー、カーニバルの『マスカーレ』一個買ってきてよ!あれをリビングに飾ったらディ・モールトイカすと思うんだよね――ロネ
『ヴェネチア』ってよお〜〜。『ヴェネチア』なんだよなァ〜〜!?なんでよォ、シェークスピアの野郎はよォ!ヴェネチアじゃなくてベニスって呼ぶんだァ?「ベニスの商人」とか「ベニスに死す」とかよォ――!ちゃんとヴェネチアって呼べよなァ!!納得いかねえよスゲー納得いかねえ!ヴェネチア人ヴェネチアーノ舐めてんのかァ!?シェークスピアが(これ以後ぐちゃぐちゃに筆跡が乱れていた)
俺らはヴェネチアンレースでいいぜー部屋のカーテンが破れちまってよ――ソル&ラート
ペッシとイル以外の土産は無しだ!――リズ

これを読んだあとにリビングの壁を見れば、異彩を放っていた小さなパンタローネの仮面がこちらを見返したように見えた。
結局この“リズ”は叶えられる限りで仲間の希望を叶えたのだろうと察しがつく。よく見回せば、ダイニングの机の上には綺麗に編みこまれた小さめのヴェネチアンレースの、年季の入ったコースターが重ねられていることに気がついた。
思わず次に手が伸びる。
だが、隣の男が次に拾い上げたのは、少し古びて黄ばんだ、簡素な封筒だった。中には手帳の切れ端が入っている。

ちょっと行ってくる。すぐ戻るよ!――ラート
いい知らせを期待しておけよマンモーニ共!――ソル

中に入っていた二枚は何も奇妙なことはない。だが、何故かそれはさも大切なものであるかのように、封筒にしまい込まれていた。封筒の表裏を見ても何も書かれていない。逆さにして振ると、はらりと親指の先ほどの小さな切れ端がこぼれた。
綺麗に四角く切られたその紙には、丁寧な字で一言だけが書かれている。

彼らに栄光を――リズ、マジオ、ロシュ、イル、アッチョ、ロネ、ペッシ

その一言の裏に書かれたそれぞれのサインは小さな紙を埋め尽くしていた。
まるで誓約書のようだと思う。
くだらない、だが何処か生活感が滲み出ているような、温かみのあるメモ書きをあらかた読み終えたあとで、ふとクッキー缶を見直してみれば、奥底にまだ真新しい封筒が八つ、しまい込まれていた。
クッキー缶の大きさギリギリ過ぎて、他の紙と一緒には落なかったのだろう。

一枚目を開けば、おおらかそうな大きな字がメモ帳に並んでいる。

じゃあ行ってくるぜリーダー、お前ら。
イヤハヤ、くだらねえポルポの葬式にサボらず行った甲斐があったなァ〜〜。あのクソ野郎は色々ぶち殺してえこととかあったが……まさか死んでから役に立つとはよォ〜。わっかんねえもんだよなあ人間ってよォ……。あのブチャラティがなあ〜〜。
しっかりボスの娘をとっつかまえてくるぜ〜。ほんと、しょーがねえよなあ〜こんなことしなきゃ、俺らァ生きたまま死んでるまンまだもんなァ〜。
じゃあアリーヴェデルチ!またあとでな。 ああ、俺の猫に餌やっといてくれ!
帰ったら、ボスをぶっ潰す計画たてねーとな。頼んだぜ!
ホルマジオ・カッテージ

二枚目は几帳面そうな細い字で書かれている。

行ってきます、リーダー。みんな。
たかが護衛と侮ってかからねえようにするよ。……ホルマジオが殺されたなんて、今でも信じられねえ。
仇は俺のスタンドで絶対とってみせる!そして、俺たちは栄光を掴み取るんだ。
リーダー、今までありがとう。このメモは、帰ったらちゃんと燃やすから書いておくよ。
俺はこのチームが好きだ。始末しなくちゃならねえのかわかんねえ奴を殺さなきゃいけなかったことも、地獄の底の魔物以下の最低最悪なゲス野郎みてえな事して歩んでる道に疑問をもったこともあるけど、俺はあんたやアンタらとこの道へ歩み出せた運命に、心の底から感謝してる。
俺たちは、この世界で確かに生きてるんだ。
すぐにポンペイから娘を連れてもどるぜ。帰ったらホルマジオの墓を作って、それからみんなでボスをぶっ殺してやろう!
じゃあアリーヴェデルチ!
イルーゾォ・スペッキオ

三枚目に差し掛かった辺りで、漸く察しがついた。
三枚目。洗練されているとは言い難いが、一文字一文字が丁寧に書かれた字で書かれている。

行ってきます、リーダー、ギアッチョ、メローネ。
何があっても、絶対に、あいつらをぶっ殺して、そして俺たちに栄光をもたらしてみせます。
まだ一人で任務にもいけねえ、人を殺したこともねえようなマンモーニの俺だけど、このチームのためなら命をかけたっておしくねえ。でも、無駄に命を捨てるようなことは絶対にしない!って覚悟決めて行ってきます!
イルーゾォ、どうしましょう。お墓にはイルーゾォの好きだったヴェネチアの手鏡を入れてあげたら喜ぶかなって俺思うんですけど……。帰ったら決めないとッスね。
兄貴には怒られるかもっすけど、家が寂しくなるのがすごく悲しいッス。……でも、きっと俺たちがボスをぶっ殺したら、イルーゾォもホルマジオも、ジェラートもソルベもきっと喜んでくれますよね。あっ帰ったら兄貴に怒られないうちにこれ燃やしちゃわないと……!
兄貴もいますし、絶対成功します!俺たちを信じてください!
アリーヴェデルチ!
ペッシ・ブッリーダ

次の紙は洗練された風な流麗な筆記体。

俺たちの覚悟は既にきまっているッ!
どうせペッシのやつァ泣き言いってんだろーなァ。燃やさねえで俺に見せろよ。叱り飛ばしてやるマンモーニが!
アッディーオ、リゾット!
プロシュート・T・クロード

勢いのある文字がはねる五枚目。

行ってくるぜ、リゾット。
メローネがアイツ等始末したら、三人で合流するんだよな?
了解だヴァ・ヴェーネ。忘れちゃいねえよ。
なァ全部終わったら、この家から小さな家に移ろうぜ。この家ァ三人じゃ広すぎる気がするぜ。金を手に入れたら、イタリア中回ってもいいんじゃあねえか? プロシュートの奴はトリーノで、ペッシがネアポリス……他の奴らが何処で生まれたのか、そういやあ聞きそびれたな。
リーダー、あんたなら覚えてッか?ちなみに俺ァヴェネチアだったんだぜ。知ってたか?
そうだ、仕事がらみじゃあねえ観光、ナポリ湾にいったぐらいしかねえじゃあねえか。 あいつらをしっかり埋葬したら行こうぜ。観光。ヨーロッパ飛び出して、アメリカ行ってもいいな。アイツ等に先に死んだことを後悔させてやろうぜ!
じゃあな!アリーヴェデルチ!
ディスクを取ったらすぐに連絡する。
ギアッチョ・タルトゥフォ

なめらかな右肩上がりの文字が並ぶ、六枚目。

行ってくるよリーダー!
いい報告を楽しみにしてて? プロシュートとペッシの遺体もちゃんと持ち帰るからさ。
俺はこのチームが好きだ。そしてアンタが好きだ、リゾット。
あんたの目に映る栄光なら、俺も見ることが出来た。あんたの見る栄光の夢に、俺たちは賭けたんだ!俺みてえな屑でも、見れる夢や希望があるなんて思えやしなかった!グラッツィエ!
二年、長かったよね。あの二人が居ないだけで、辛くて苦しくて、さみしい二年だった。
それは皆、そうだったと思う。でも、チャンスが来るまで耐えられたのは、みんながいたからだ。
本当に俺たちはディ・モールト良いチームだっただろう?リーダーにとってはどうだった?
アリーヴェデルチ!俺たちリゾットチームに栄光を!
メローネ・ミッレフォッリエ

封筒から出してテーブルに並ぶ六枚のメモに、小さく息を吐いた。
読み終えたミスタが、沈黙を裂いて声を上げる。

「こいつらとは、若しかしたら手を組めたのかもしれねえな」
「言っても仕方ないことを言うのは無駄ですよ」

暗殺チームのアジトを調査していたミスタとジョルノは、向かい合わせにツギハギのあるガタのきた椅子に腰掛け、顔を見合わせてため息を吐いた。

「でも、大切だったんでしょうね。封筒に入れてしまっておくほど。足がつくかもしれないと思っても、捨てられなかったほどに」
「鳴呼……。本当は捨てなきゃならねえと思ってたンだろうぜ。さもなきゃあ、わざわざメモに偽名使ったりはしねえ。それでも、そうさな。お前の言うとおりだジョジョ。捨てられなかった……。この“リーダー”、“リゾット”っつう奴は……」

口にはしなかったが、ミスタは少し、リゾットという男に亡きブチャラティを重ねた。
そして、メモに言葉を残して死んでいった暗殺チームに自分たちを重ねた。ミスタは、ブチャラティの為なら命も惜しくなかった。彼の為になるのなら、彼の望みの為ならば、何だってしてやれた。それはー―ある種ブチャラティを導く立場だったジョルノには一生わからないだろう感情だ。導かれる、幸せというものは、ジョルノには似合わない。だが、ミスタには、肌身に近い感情だ。
何が彼らと自分を分けたのだろう。
泥濘の底の牢獄で鎖につながれた“眠れる奴隷達”が目を覚まして見たのは“希望”に違いはなかった、とミスタは思う。同じように闇に光る星を見て、その星に手を伸ばした。
黄金の風に瞬く星を、覚悟の意思を導く星を、ミスタは手に掴むことができて、彼らは結局掴む事ができなかった。
そこに、“ラッキー”以外の違いなど無い。

「本当に、てめえは俺の“ラッキー”だぜ、ジョルノ・ジョバーナ」

小さく呟いて足を組み替えれば、カツン、と硬いものがつま先に当たった。なんの気もなく、身をかがめて拾い上げる。

「これは……」
「クッキー缶と一緒に落ちたんでしょうか?……あ」

蓋のない、金属の筒だった。ジョルノが軽く触れれば、それは黄金色の花を付けたサンダーソニアになってテーブルに咲く。それとともに、その筒の中に入っていた、白い便箋がひらりとテーブルに落ちた。
整った、特徴のない黒い文字。少し縦長に伸びているアルファベータが、抑圧の中に少し残された個性のようだった。

行ってくる。ソルベ ジェラート ホルマジオ イルーゾォ ペッシ プロシュート ギアッチョ メローネ。
言っておくぞ、お前たちは大馬鹿野郎だ。どいつもこいつも、アリーヴェデルチまたなといっておきながら、結局一人も帰ってこないじゃあないか。ああいや、プロシュートの馬鹿野郎だけは、アッディーオあばよなんて使っていたか……。ふざけてるんじゃあない。
なあ、四月の魚の日ペッシェ・ダプリーレにつく嘘は、午後には撤回するのが最近の流行じゃあないのか。英国イングレーゼの放送局の悪影響でも受けたのか? もう日付は変わったぞ。
悪趣味な嘘だったんだと言って、今にも玄関開けて帰ってきやしないかと、無駄な期待をしてると自分でも思う。お前らを埋めたのは俺だっていうのにな。
言う必要なんてないのかもしれないが、あそこは見晴らしのいい共同墓地だ。ナポリ湾が見渡せる、いいとこだ。ソルベとジェラートを葬ったのも、まるで昨日のようだが……。これで墓参りしなきゃならない墓が、此処に六つ増えたってわけだ。
見晴らしのいい、風のよく通る沈丁花の下の墓だ。葬式もしてやれず済まないな。
お前たちの遺体をできるだけ回収するだけで一日経ってしまった。

まずはソルベ、ジェラート。二年越しだが、お前たちの願った良い知らせが、俺たちに届いた。かならず、お前たちの作った切掛を無駄にはしない。お前たちのおかげで、俺たちは首輪に耐えられた。俺たちに夢を見せてくれたのは、お前たちだ。

ホルマジオ。お前の読みは正しかった。ブローノ・ブチャラティのチームが娘を護衛していた。お前のおかげで、しっぽをつかめた。ああ、猫には、俺が帰ってこなくても一ヶ月は持つほどの餌を置いてあるが……窓を開けていくからもう逃げてしまうかもしれないな。お前は最期に、“生きて”いただろうか?

イルーゾォ。お前の遺した情報で、娘を追うことができた。グラーツィエ。こんなクソみてえな運命でも、お前は良いというのか……。恨まれ蔑まれ、憎まれるこんな運命でもか。本当に、妙なところで前向きなお前らしいよ。済まない、メモなんだが、燃やすにもやせなくてな。それもこれも、お前たちがまるでいつもみたいにバカみたいな紙に書いて置いておくからだ。買い物にいくんじゃあないんだぞ、と思ったが、それもお前らなりの覚悟なんだろうと、もう分かっている。俺の方こそ、ありがとうイルーゾォ。

ペッシ。お前の成長性を俺たち全員が見込んでいた。プロシュートだけじゃあない、お前の魂の奥底にある、燃え立つものを感じていた。それでも……そうだな、マンモーニだったのは俺たちだ。人殺しをさせたくねえと、ついつい少ない任務をおまえに割り振らずに置いた俺の責任かもしれない。だが、聞いたぞペッシ。やはり俺たちの見込みは間違っちゃあいなかった。お前は、誰よりも強いアッサシーノになれたかもしれんな。

プロシュート。お前らしいメモの遺し方だ。そのくせ、アッディーオだなんて巫山戯やがって。
最期の最期まで、お前の高潔な生き様は曇ることはなかった。そうだな、覚悟なんて二年前のあの日にとっくに決めていた。酔っ払って管を巻くお前が言ったことはまだ覚えてる。俺たちにだって、誇りが有る。尊厳がある。踏みにじられたまま死んでたまるか……そうだろう?

ギアッチョ。そうだな、とても寂しくなった。お前たちはいっつも馬鹿騒ぎして喧しかったからな。たまには静かにしろと思ったが、本当に静かにされるとどうしていいかわからないものだ。ああ、勿論、リーダーとしてあいつらの故郷ぐらいは基本データに入っている。ボスを倒して栄光を手に入れ、全て終わったらお前の言うとおり、イタリアを回ろう。一人ぼっちにしたことを後悔するほど、楽しく生きてやろうじゃあないか。お前たちも、もしかして故郷で眠る方がいいだろうか……。

メローネ。お前が死んだことが、未だに信じられない。お前のスタンドは本体の命の危険がほぼないと、それが売りだったはずじゃあないのか。それに、お前は俺のおかげで夢をみれたというが、それは違う。俺は、お前らとともになければ、希望も栄光も、夢も、望むことなどなくただ、心が死んだまま生きていたんだ。そうさ、お前たちは、俺たちは誰にも負けないアスクヮドゥラ・ディ・アッサシーノだ。最高のチームだった。俺にとってもそうだ。

栄光は、俺たちにある。ボスを殺し、栄光を手に入れるのは俺たちだ。
アリーヴェデルチ。いつかまた。

リゾット・ネエロ

 

 

 

 

「いきますよ」
「おう」

ジョルノの拳が、クッキー缶に触れて、様々な花を生む。
真っ赤なグロリオーサがつぼみを擡げて咲く。次はルピナス。真っ白に咲いて、墓石に絡む朝顔と昼顔。数枚のメモはコケとなって墓石を覆った。黄金のサンダーソニアが根を張る。オレンジの濃いアフリカンマリーゴールドが墓石の足元に固まって咲く。深い桃色の芝桜が、オレンジの横に花を咲かせた。アイリス、リコリス、そして、アレキアが大きな花を咲かせ、最後に残ったクッキー缶が真っ赤に萌えるようなイキシャの花弁になり、風に乗ってネアポリスの街へと吹かれていった。

最後に、と残しておいた九枚の封筒をジョルノは手のひらで包み込む。
“ゴールド・エクスペリエンス”の拳が、ジョルノからそれを受け取り、まるごと手の中に隠して、まるで喝采する観客のような仕草で墓石の上に手を広げた。

手のひらから、今、生まれたばかりの九羽の鳥が、もつれ合うように互いに寄り添いながら、確りと翼を閃かせて空へと舞い上がっていった。

END