スモーカー中将からはいつも葉巻の重たい煙と潮の香りがする。だが、彼の能力で出た煙にはなんの匂いもない。不思議なものだと思う。
葉巻の重たい香りと裏腹のその無臭の煙は自分たちを守るもので、海賊どもを蹴散らす武器でもある。
だが、時折その煙は奇妙な香りをまとうことがある。故郷でよく嗅いだ煙の匂いは、彼にはふさわしくない凶事の匂いだ。
「あっ」
「……あ」
自分と同時にたしぎ大佐が声を上げて通り過ぎたスモーカー中将を振り返る。自分も同じように鼻をかすめた匂いに思わず彼を見た。
「……なんだ」
意外と面倒見の良い彼はふたつそろった声に怪訝そうに振り返る。たしぎ大佐と一緒に慌てて手を振って何でもないとごまかした。大佐の視線が自分に向く。
たしぎ大佐と自分はよく似た文化のある島だというのは知っていた。
この匂いは、弔いの匂いだ。
「なんでスモやんからお線香のにおいが……」
自分の言葉にたしぎ大佐は苦笑して頷いた。
「あの匂いがしたら、私に教えてくれますか。あまり良くないので」
真剣な声音に慌てて頷く。
たしぎ大佐は微笑むとスモーカー中将に駆け寄った。中将の背後でわざと音を鳴らすように鯉口を切る。
──キンッ
異様に澄み切った金属音が響く。
一瞬むせかえるような線香の匂いが広がって消えた。
「本当になんなんだ、たしぎ」
「えーっとえへへ……」
「またドジったのか」
「まあそんなところです」
スモーカー中将は呆れた顔でまた歩き始める。
もう、線香の匂いはしなかった。
完