船大工たち

「バカバーグ!」
 太いどら声の罵り声が、廃船島に響く。
「ンマー、なんだバカンキー」
 低く落ち着いた声が同じように親愛を含んだ罵倒を返す。マストのロープを結んでいたパウリーは目を開き、ついで懐かしんだ。幼き日に強く強く憧れたトムズワーカーズの声がする。声は変われど、まだ此処に残っていた。この軽妙な会話、間に挟まる豪快な笑い声が今にも聞こえてきそうだ。
 船大工パウリーの原点の憧れが目の前に広がっていて眩暈がする。
「フランキー!あれ持ってねえか?」
「は?あー、ねえな。ガレーラの若頭にさっき渡した!」
「そうか。ンマー、パウリー、防風の下げ振りそっちにねェか?」
「あ、はい!持ってます!」
 遠い昔を思い出していたパウリーはハッと我に帰って手に持っていた下げ振りをアイスバーグに手渡す。
──あれ?
 ロープを結び直しながら、ふとパウリーは胸がもやつくのを感じた。ぎゅ、っと縛り直して船から飛び降りる。
「どうした」
「べつに……」
ルルとタイルストンが顔を見合わせる。
「わかった。フランキーには『あれ』なのに自分には名前で言われたから拗ねてんだろう」
「めんどくせえな!」
「そんなんじゃねェよ!!」
 

 眼下で手際よく木鋸を引き、ロープをひく職長たちを見下ろしてフランキーがつぶやく。
「ガレーラの若頭共も、なかなかいい腕してんじゃねえか」
「当たり前だ、おれの弟子だぞ」
「あのロープのやつァ、あれだろ。あの鼻ッ垂れのパウリー坊主だろ」
「覚えてたのか」
「思い出した。海列車作ったあとにトムズワーカーズに入りたいって来たガキだ」
「ンマー来る前に潰れちまったからなあ」
二人で含み笑う。これほど穏やかな気持ちで木槌を振るえる日が来るとは二人とも思っていなかった。
 とんてんかんてん木槌の音が鳴り止まぬ。
 いずれ海賊王の船となる船は、今はまだ生まれる前。