将軍様の大好物

「モモ、これ食うか?」
 
 ルフィとゾロはまだ目を覚まさない。花の都のど真ん中の城を新将軍や赤鞘の面々が整えてくれたおかげで、サンジたち麦わらの一味は戦闘の疲れを取っていた。アラバスタ王国の宮殿に比肩する豪華な城で寝泊まりするのは、たまの贅沢といった様子でナミたちは楽しんでいる。サンジも心ゆくまでワノ国の料理を勉強できて満足していた。
 そんな折に、こっそりと仕事の合間を縫ってきた錦えもんがモモの助の夕餉を作ってくれないかと頼んできたのである。わざわざ男──しかも今まで悔しい思いをさせられたクソガキ──に作ってやるのは……と顔をしかめたサンジだが、結局馴れぬ厨の一角を借りて簡単な夜食を作っていた。広大な厨は物慣れなかったが、むしろ良い勉強になったと思う。
「ったく……」
 お玉を取って味噌汁の味見をする。我ながら絶品である。いくつか適当に拵えた料理と竈で炊いた白い飯を携え、教えられたモモの助の──将軍の執務室へ向かう。引き戸を開けながら顔を出して冒頭のように尋ねると、何やら難しそうな顔をして本とにらみ合っていたモモの助がぱっと顔を上げた。目が輝いているのは、幼い姿の頃と何も変わっていない。
「サン五郎のご飯でござるか!?」
「飯足りねェなら言えばいいだろう」
「いつもと同じりょうを作ってもらっておるのだ。おおきくなってから食べても食べてもおなかがすくのでござる」
 急激に成長した分の栄養を取ろうとしているのだろうか、続くならチョッパーに相談した方が良い、と脳が勝手に算段をつける。モモの助の前に盆を出せば、モモの助がわぁっと歓声を上げる。
「あたたかいご飯でござる~~!」
「作ってもらえよ」
「毒味がひつようゆえ、どうしても冷えるのでござる。いましぬわけにはいかぬゆえしかたないのでござるが、あたたかいごはんは美味しいでござる~。それにサン五郎の料理はぜっぴんでござる」
 にこにことかなりの量を作ってきたサンジの料理をモモの助はぺろりと平らげていく。船に居たときよりも肩の力が抜けているように見えるのは、重責をわずかでも下ろせたからだろう。
「……まァよくやったよお前は。かっこよかったぜ」
 座ってようやく手の届く頭をかき混ぜる。
 モモの助ははにかんでスープをすすり込んだ。