もうしおくり

 ゾウでの宴の間際、チョッパーが近づいたのはドレスローザで分かれるときよりも穏やかな顔をしているローだった
「トラ男、やっと見つけたぞ」
「トニー屋か」
 ローは怪訝そうにチョッパーを見る。だが、チョッパーの手に持っているものを見て目つきを変える。一抱えもある書類だ。
「早めにこれを渡しておこうと思って。ハートの海賊団のカルテだ。表紙に名前が書いてある。申し送りも今していいか?」
「……ああ、頼む」
 一抱えはあるカルテの山をローに渡す。ローがカルテに一通り目を通すのを待って居る間に、はっと思い出す。
「そうだ! おれお前に謝らないといけねェんだトラ男」
「謝る? 何をだ」
「勝手に艦のカルテ見ちまったんだ。ごめん、血液型とか持病とかわからないと処置が出来なくて」
「おれのクルーが許可したんだろう。医者なら当然だ。……むしろ、おれのカルテ読めたか」
「大丈夫だ。北の海の形式だよな。島独特のやつじゃなかったらどこのでも読めるよ」
 チョッパーの言葉にローはへえ、と感嘆する。会話をしながらも読み進めたカルテは痒いところにもきっちり手の届くもので不満はない。それだけでもこの小さなトナカイの医者の腕がわかるというものだ。
「じゃあ申し送りもするな」
 チョッパーの言葉にローは頷いた。その頃にはもうこの小さな医者を軽んじる気はなく、周りから見ればそこはまるで病院の一室のような緊張感が漂っていた。
 申し送りを終えて、チョッパーはふと呟く。
「なあトラ男。これは医者というか、おれ個人の意見なんだけどさ」
「あ?」
 じっとりとしたローの視線を物ともせずチョッパーは考え込むように告げる。
「うーん、やっぱり医者としてなのかな……。トラ男、しばらくあいつらの側に居てくれよ。おれも気持ちわかるんだけど、あいつら寝込んでる間ずっとうなされてたから」
「……」
「一緒にいれないのってくやしいもんな……」
 ローは黙ってチョッパーの帽子をぐりぐりと押さえる。
「俺に命令するな。それに……もう艦を離れる気はない」
「そっか、じゃあいいんだ!」
 満面の笑みのチョッパーにローも釣られてわずかに口元が緩む。
「キャプテン!ジョッキもって!」
 宴の準備は整っている。
 ゾウの夜は賑やかな声で宴が始まった。