獣でも女でもモンスターでも

 ぐるる……と不機嫌そうに喉を鳴らす白い毛並みの美しい獣に歓声が上がった。白くふわふわとした毛並に覆われたしなやかで柔らかい手足。雪に木漏れ日のさしているような黒い斑点が特徴的なネコ科の猛獣。新世界で噂される人の姿を一時敵に獣に変えるトーテム気流に巻き込まれ、美しく巨大な雪豹となったのは運悪く甲板でベポと昼寝をしていたトラファルガー・ローただ一人であった。ミンク族であるベポは多少獣の特徴が増えただけで殆ど変わらない。
 心底楽しそうな総勢二十人のクルーに囲まれて、ローは太く豊かな毛並みの立派な尾をだらりと下げた。もはや諦めの境地である。
「可愛いんですけどキャプテンー♡」
「ふわふわ~♡」
 ハートの海賊団の名にふさわしいのか、語尾がとろけたクルーがもふもふとキャプテンの毛皮に埋もれてニコニコと笑っている。
「ガルチューもっかいしていいキャプテン!」
 もう十分やっただろう、と近づくベポの顔に前足を押し当てる。ずるーい!と声が上がったのはもう信じたくない。
 けれどペンギンが梳く耳元は心地良かった。シャチが撫でる喉元もまた。ウニのマッサージは神業だったし、イッカクだから肉球を触れさせたのだ。チョコレートボンボンよりも甘いクルーたちの声にほっとしてしまう。さっきからひっきりなしにぐるぐると喉が鳴ってしまうのは、頼むから不機嫌だと思ってくれ。
──勘弁してくれ。
 うなだれたローに気が付いたのかベポは隙をついたガルチューを遂行しながら笑う。言葉も発せないのにこよくもまあローの言いたいことがわかるものだ。
「大丈夫。トーテム気流の変化は日が暮れるまでだから、心配しないでキャプテン」
 不安なわけじゃあねェと尻尾でベポをはたく。
「すみません……」
「「打たれ弱ッ!」」
 雪豹となったローから離れないシャチとペンギンがベポに突っ込んで三人でけらけらと笑う。はあ、と獣の口から人じみたため息が漏れた。
――こいつら、おれがどんな姿でも関係ねェのか……
「そりゃそうでしょ。おれたちはローさんに着いてきたんだし」
「アンタが虫でも魚でも獣でもバケモンでもローさんならおれたちは着いていくよ」
「女の子ならきっと可愛いだろうなー♡」
 ペンギン、ベポ、シャチと勝手なことを言い合う馬鹿どもにローはもう一度深々とため息を吐いてどっかりとペンギンの膝に重たい頭を乗せた。
 なんて、馬鹿で、愛しい、仲間達。