ゆめみるこども

──夢ばかりを見ていた。
 遠浅の海ばかりが美しい島だった。夕日を浴びて燃えるエメラルドの海。
 ガラクタとごみの積み上がった山頂に陣取って、子どもは飽きることなく南の海サウスブルーの鮮やかな海に太陽が沈むのを見つめていた。その先以上に美しいものを、結局子どもは一度だって見つけられずにいる。
 自由に生きること。
 そのためには子どもにはこの島は狭すぎて、海はあまりに広すぎた。
 帆を上げて海へ、己を遮り嘲笑うすべてを食らいつくしてこの海の頂点に立つ。
 それだけの夢だ。

 

 内臓が引きちぎれそうな圧倒的な覇気がキッドを襲う。組み上げた電磁砲が、ブリキのおもちゃのように真っ二つになる。引き金を引くことさえできなかった。視界の端でキッドを守ろうと即座に甲板を蹴った相棒が弾き飛ばされるのを見た。
 目前に迫る圧倒的な四皇の剣閃。
 キッドの全力を込めた覇気を赤髪のシャンクスの覇気が上回り、吹き飛ばす。
 あまりに遠い頂点の景色。
 たった一振の剣閃がキッドの意識を刈り取る。ぶつりと切れた意識の端で、果ての無いはずだった冒険の終わりの音がする。

──これほどに遠い。あまりに高い、海賊の頂き。

 自分はまだあの島のがらくたの積み上がった小さなごみ山の山頂でゆめを見ている子どものまま、何も変わっちゃあいないとでもいうのか。
 船と仲間はもろともに沈む。
 もう二度と上がれぬ深い新世界の深海へ。

 

 子どもは夢を見ていた。
 いつでも、夕日に燃えるエメラルドの海の、その先を夢見ていた。
 夢は夢のまま、まことにならないから夢なのだと──そういう人間を叩き潰して生きていた。
 目を覚ませとどこかから声がする。
 それは、船か、仲間か、親友か。それとも子ども自身の魂の声か。
 いつもと同じだ。
 子どもの見る夢を邪魔する大人に、子どもはいつでも牙を剥いて生きてきた。
 それはあの島のギャングであり、赤髪海賊団の幹部であり、人類最強の龍であり──そして今度は四皇赤髪自身であった。
 いつものことだ。
 ユースタス“キャプテン”キッドの生涯によくある話だ。
 時が来たと囁く声に従って、目を開ける。

 再び船出するに相応しい青空が見えている。