激情に露わになった紅い目が落ち着きを取り戻すと途端に藤に隠れていく。
なんともまあ、美しい光景だ。
思わずそれをあまりに惜しげに見つめていたのを悟らせてしまい、彼の藤映しの目が怪訝そうに細められる。
「何だよ」
「ああ、藤の花だね」
「はあ?」
思わずぽろりと零した言葉に日本号が首を傾げる。
「号ちゃん、黒田で大事にしてもらったんだねえ」
しばらく福島の言葉の意味を考えていた日本号は、すぐに得心して苦笑した。
「そりゃあなァ」
「黒田の藤の目だ。昔は俺と同じだったけど……ああ、きれいだ」
ふわふわとした付喪神の身分ではあったが、正則の下にあった付喪神はみな同じような色を纏っていた。血の気の多い前の主の気性が写ったのか、真っ赤な椿のようだった。
手招けば素直に身をかがめて福島が顔を見やすいようにする。彼の両目をのぞき込んで、福島は感嘆した。かつて瑞々しく咲いた椿のようだった瞳は、いまや穏やかな情が揺れる藤の花に咲き変わっている。
水無月の風に揺れる藤棚の花のようにゆったりと揺れる花を思わせる。けれどその藤棚を掻き分けた奥に、苛烈な椿を匿っているのだ。
──自分と同じ色を残していてくれたことが嬉しい。
福島はしばらくまじまじと観察して、満足げに頷いた。解放された日本号はくつくつと鷹揚に笑いながら開きっぱなしだった目を瞬かせる。
「満足したかよ」
「うん。きれいだよ号ちゃん。今度藤の花を生けてみようかな。本丸に藤も咲くんだろう?」
「そりゃあいいな、博多が喜ぶ」
「博多……博多藤四郎くん? 黒田の子?」
「おう」
「そうなんだ。あれ、長谷部くんは?」
「あいつは素直じゃねえだけさ」
日本号は肩を竦めて口を尖らせるが、その声音は優しい。彼らを思い出して目元を和らげる彼を見上げて福島は尋ねる。
冬にきた福島はまだ本丸に咲く藤をみたことがない。咲けば案内してやると言われて一二もなく快諾する。
「ねえ号ちゃん。俺も藤を好きになれるかな」
「ああ、何たって俺の好きな花だぜ」
世に槍は幾条あれど、これほど義理堅く情け深い、美しい槍が他にあるだろうか、と福島は心から賞賛する。
「じゃあ、きっと俺も好きだねえ」
日本号は満足げに槍をかついでいた。
藤写しの眸 終