「お邪魔するってばよ!」
「邪魔するぞカカシィ!」
賑やかな声が二つ重なって玄関口から飛び込んできた。加えて、二つにかき消されそうな声が三つ遅れて聞こえる。
カカシとサクラは目を見合わせた。カカシがタオルで手を拭き拭き玄関に向かう。
「いらっしゃい、ナルト、サスケ、サイ。テンゾウとガイも」
「だからヤマトですってば先輩。あ、これツマミに奈良家の漬物もらいました。シカマルくんから。あと秋道さんところから果物と、イルカさんからビールもらいましたよ」
山のような荷物を持ち上げてヤマトがくすくすと笑う。加えてガイが背負っていた荷物をカカシにつきだした。
「俺も紅から酒だ! あと『今日行けなくてごめんなさいね』だと。コテツのやつとイビキからも酒だな。それから、ゲンマから味醂干しと、エビスから佃煮を貰ってきたぞ!」
「なによ酒ばっかりだね。……あとゲンマとエビスの選択肢がよくわからないよソレ」
「エビスのは油目一族のとこから買ってきたんだそうだ!」
「まさかエビスから強奪したんじゃないでしょーね?」
大人組の差し入れを受け取りながら、一行は廊下を歩いていく。ナルトたちはサクラに現状を報告しながら、その後ろに続いた。
途中、サスケがカカシに包みを渡す。
「日向家の夏蜜柑と、キバから干し肉。あと、トマト」
「わざわざありがとうねサスケ。トマトはサラダに入れようかなあ」
「ええー、野菜ばっかりだってば?」
「お前は野菜をちゃんと摂りなさいよナルト」
和気あいあいと話しつつ、一行は居間にたどり着く。九人が入っても狭くならない様、襖を開け放した居間に、長めのローテーブルが並び、その上にご馳走が並んでいる。
秋刀魚の塩焼きに、なすの味噌汁、唐揚げ、サラダもあれば、胡桃が乗っている皿もあり、盛大なご馳走には間違いない。
その横の小さめのちゃぶ台には赤いアルバムが並んでいる。
それについて言及される前に、カカシは一行に腰を下ろすように勧めた。
「あれなんだってばよカカシ先生?」
「んー、酒の肴……かな?」
はぐらかされたナルトが首をかしげるが、それをいなしてグラスにビールを注ぐ。全員に行き渡ったあたりで、カカシはナルトに促した。
「じゃ、乾杯の音頭をよろしく」
「ええっ!? 先生じゃないんだってばよ!?」
「青春だな!!」
「なるほど、主役にはじめだけでも花を持たせるっていう宴会の常套手段ですね」
サイの妙な判断に、一同が吹き出しつつそれぞれがグラスを持つ。
ナルトはグラスを手にした一同の視線に押され、自棄になって立ち上がった。
「えっえーと、センエツながらー、えーと、オレが乾杯のオンドをトラセテイタダキマスってばよ。えーと、キョウハー遅くなったけどオレノー」
「かんぱーい!」
長くなりそうなナルトの音頭を遮って、サクラがコップを上げる。
「乾杯ッ!」
グラスの触れ合う涼やかな音を合図に、宴会が始まった。
拗ねかけたナルトも、差し出されたサスケとサクラとカカシのグラスに自分のグラスを合わせたところですっかり機嫌を直し、あっという間にグラスを空けた。
「ねーねー、カカシせんせえ~あれ何なんだってばよ~?」
食べて飲んで随分と顔の赤くなったナルトが、ついに好奇心を抑えきれずにカカシに尋ねる。示すのは無論赤い布表紙のアルバムだ。
「そろそろご馳走様ですし、僕も見たいです先輩」
シラフと変わらない顔色のヤマトもナルトに便乗して強請る。ガイは真っ赤な顔で待っているし、さしつさされつ飲んでいたサクラとサスケとサイもじっとカカシの返事を待っていた。
「じゃ、そろそろ見てみようか」
カカシはさくさくと印を結び、アルバム自体にかかっていた封印を解く。防虫剤のにおいが微かに漂って、カカシは一番上のアルバムを手にとった。
「お祝いの宴会には、やっぱり思い出話が一番だよね」