おもひでほろほろ - 3/3

「これ……って、母ちゃんだってばよ?」
 一番上のアルバムの一枚目を覗き込んだナルトが、目を丸くしてつぶやいた。一番最初のページで、朗らかに笑っているのは、赤い髪を長く伸ばしてなびかせた、愛らしい少女の写真。
「クシナ先生じゃないか……お若いな」
 ガイが目を細めて覗き込む。
 どういうことだ、と問うナルトの視線に、カカシは気負い無く応える。
「これね……ミナト先生、つまり四代目火影が遺したアルバムなんだよ。ナルト、お前が波風ミナトの息子だってことを隠すことを選択した三代目が、お前に渡すことも出来なくて俺に保管を命じたんだ。ミナト先生ったら随分と気が早くてねえナルトの成長を集めるんだ、って生まれてもない時から大量にアルバム買ってたのよ。――本当はお前がミナト先生の息子だって自分で知った時に返そうと思ったんだけど、戦争始まってきっかけがなくてねえ」
 ごめーんね、と苦笑するカカシにナルトは大きく頭を振り、逆に礼を言う。
「ううん……嬉しいってば。ありがとう、先生!」
「遅くなったし、本来はお前のものだからこんな事言うのも何だけど、これを七代目火影の就任祝いとして贈らせてくれないかな、ナルト」
 ナルトは更に青い眼を大きく見開いてカカシを見た。アルバムとカカシを交互に見遣り、当惑する言葉が口から漏れる。
「え。ええっ!?」
「おお! 良かったな! ナルト!」
 ガイの言葉で漸く我に返り、ナルトはカカシに問う。
「い、いいのかってばよ!?」
「元々、いつかお前に返すために預かってたんだよ。まあ白いまんまなのもさみしいから、埋めたりはしたけど。テンゾウの写真とかでね」
「えっ!? 嘘でしょう!?」
「何それみたーい!」
 ヤマトとサクラが同時に正反対の声を上げる。サイも目を輝かせた。
「ほらこれ――可愛いでしょ」
 カカシには判別がつくらしいアルバムの一冊を取り出し、中程の一頁を開いて指差す。
「うわっ!可愛い!」
「ウソこれヤマト隊長なの!」
 背中までの長い長髪を垂らした、少女に見まごうばかりの大きな目の少年が好物を前にして微かに頬を染めている可愛らしい写真に、ヤマトは絶句し、サクラとナルトは歓声を上げた。
「守秘義務どこに置いてきたんです先輩!? 僕このころ暗部しかしてませんよ!? 」
「おっおい!大丈夫なのかカカシこれ」
「任務の時じゃあないし、プライベートの写真だし、大丈夫だよ。それに、潜入任務の時に撮った写真とかだから大丈夫大丈夫」
 ガイとヤマトが少しばかり納得する。
「ああ、糸の国に観光を装って行ったことありましたね。これがそうですか」
「カメラがあるとないとじゃ全然それらしさが違うからな」
「そうそう。ほらこれ、イタチでしょ」
 次のページを繰って指を差すカカシに、我関せずでお猪口を呷っていたサスケが勢いよく振り返る。
「は!?」
 指差す写真を見れば、若いヤマトと並んで団子を心なしか嬉しげにほおばっている幼いイタチの姿が確かに写っていた。絶句するサスケに、カカシが話しかける。
「糸の国の名物の錦糸団子っていってねえ、食べた時に随分気に入ったらしくて、お土産に何本か持って帰ってたよ。親友と、両親と弟にって言ってたなあ……」
「兄さん……」
 いつの間にか酒瓶と肴以外すっかり片付けられた(ナルト達の影分身が片付けた)居間にアルバムが広げられる。
 食い入るように見つめるサスケを置いて、ナルトは一番年季の入っていそうな一冊を取り出す。
「これだけ、ちょっと年季が入ってるってばよ」
「このアルバムもロングセラーだもの。おんなじ形で何十年も出されてるらしいわ。なんでも、中の写真が虫に喰われず、経年劣化もゆっくりにする術をかけてあるんだって」
 ナルトとサクラが言い合いながら、その一冊を開く。ぱらりと開いた表紙のしたに現れたのは、古いモノクロ写真の中で微笑む、ひとりの青年。
 銀色の髪の毛に、ねむたげな目元の優しげな青年に、二人はカカシを見た。その二人の横から首を伸ばしたガイがおお、と声を上げる。
「サクモさんか?」
「サクモさん……? もしかして、木の葉の白い牙の?」
 サイの言葉に、ガイが頷く。
「そうそう、父さんの写真これ一枚しか残ってないんだよねえ……あとは戦争やらなんやらで焼けちゃったり無くなったりして」
 なんやら――つまり、守ったはずの里の仲間から糾弾され、迫害されて心身を病んだ時の話だ――の部分をはっきり悟ったのはガイだけだったが、ガイは何も言わずに写真を見ていた。
 照れているのか、はにかむように笑っている青年とカカシを見比べ、サクラは笑う。
「目元とか、鼻筋とか先生とそっくりね!」
「え。そうかなあ」
「先生によく似てるってばよ!」
 まじまじと見つめて、満足したのかナルトが次のページをめくる。
「あっ!」
「えっ、あれ、やだなあ。こんなのもあったの?」
カカシが頬を掻いて苦笑する。じっくり見てなかったから知らなかった、と零す。
「可愛らしいじゃないですか先輩」
 まだ歩くこともできない赤ん坊は、間違いなくカカシの幼少期だ。ふくらしい手のひらがバスタオルを掴んで口元に寄せている。すやすやと眠る赤子は、目元以外がタオルケットに隠れていた。
「……なんで全部口元にタオルかけてんだよ」
 というサスケの小声の密やかな文句は、ナルトとサクラに全面的に同意された。几帳面そうな細い字が写真のしたに日付やコメントが書き加えられていた。サクモというカカシの父の細やかな愛情がこそばゆく、暖かった。
「ミナト先生のとこのアルバムばっかりのはずなんだけど……こんなところに俺の写真まで残ってるとは思わなかったな……恥ずかしいから別の見なーい?」
 カカシの意見は総員に却下され、幾ページにも渡る成長記録をおっていく。歩けるようになった頃には、もう口元にマスクが有り、七班の三人に実に口惜しがられていた。
 何頁目かにたどり着き、サスケが切れ長の目を開く。
「アカデミーの入学写真か」
「おっ俺もいるぞ!これは紅だな、アンコだろう。ゲンマに、ハヤテ、エビスに……アスマに」
 ガイが指を差す。途切れた言葉に気づかず、見慣れた大人の幼い姿に、ナルトたちは興味津々で魅入っていた。ガイの止まった指を引き継いて、カカシが少女を差す。
「――これがリンにこっちがオビト。これが俺だな」
 カカシは懐かしげに目を細めて、写真を眺めた。
「とっくに捨てたかどこかに遣っちゃったかと思ってたから、また見れるなんて感慨深いなあ。ミナト先生こんなのまで残してたんだねえ」
「なんだ、言ってくれれば俺はちゃんと取ってあるぞ!」
「やだよ情けない」
 そのアカデミーの写真を境に、カカシがピンの写真から人とともに写っている写真が増えていく。
 だが、写真の中の幼いカカシの視線は暗く、抜身の刃の様に鋭いものになっていっていた。
 ――おそらくこの時期にサクモが死んだのだ、と気づくのは大人だけだ。
 素知らぬ振りのカカシが一枚の写真を差す。
「あ、これ中忍試験の時の写真じゃない?」
「ん?おお、本当だな!ほら、ここ後ろ姿だがクシナ先生と俺たちだ。ううーん青春していたな!!!! 」
「これオビトがお前に負けて悔しがってる写真じゃないかこれ」
 栗色の髪の少女――リンといる時や、忍び組手の後の写真などでは年相応に近い表情を浮かべるカカシを楽しみながら、ページはめくられていく。
「あっ!」
 ナルトが新しいページの写真に息を飲んだ。カカシはぱっと顔を明るくする。
「あっ、これ……無いと思ったらこんなところに! クシナさんとミナト先生の結婚式だよこれ。懐かしいなあ」
「うわあ……ナルトのお母さん綺麗ね……、この人は四代目様ね!」
 花嫁衣裳に身を包んだ赤い髪の美女が、溌剌とした笑顔で友人らしい黒髪の女性と肩を組んで写真に写っている。サクラはほう、と憧れと感嘆のため息をついて頬に手を当てた。
「――母さん?」
 サスケはクシナと共に映る黒髪の美しい女性を見て、呆然と呟いていた。
 結婚式のスナップ写真は、明るく華々しく、これが戦時中だということを忘れさせるほど華やかだった。
新郎新婦の喜びと、周りの祝福が写真の中に溶けこんでいるよう。
 クシナの友人であったらしいサスケの母、ミコトの姿が出るたびに、サスケは黙ってじっと母の生前の姿を見つめていた。
「あ、これミナト先生が撮ったやつ」
 下忍班の写真を眺めつつ、ページは繰られ、最後の一枚に、ガイが息を飲んだ。
 無残に崩れた、石橋の写真。資料用に撮られた、感情のこもらない無機質なもの。
「――神無毘橋か……」
 唯一先の戦争を知るガイが、重たい声を上げた。
 カカシの父から始まった一冊は、無機質な風景写真で締めくくられていた。
 まるで、カカシの人生がこれで締めくくられているように。
「いやあ懐かしかった」
 しみじみとカカシが沈黙などないもののようにつぶやき、アルバムを閉じる。
 もう一冊を取り上げて、ぱらりと開いた。
「カカシせんせ……」
何かを言おうとするナルトを遮って、カカシが開いた写真は、おくるみに包まれた幼い乳飲み子。
「なあに、ナルト。あ、これこれ、これはホントーにナルトだよ」
 にこにこはぐらかされては流石の意外性ナンバーワン忍者でもそれ以上何も言えず、ナルトは素直にアルバムを覗いた。
「わあ、猿みたいだね」
 サイが真顔で告げた感想に、ナルトはサイをどついた。
「俺もそう思ったけど! はっきり言うんじゃないってばよ!」
「産まれたばっかりのナルトだね。これは誰が撮ったんです?」
「んー。俺」
 ふふ、とヤマトの問いに答え、カカシはナルトに水を向ける。
「ナルト、自分の写真とか残ってないと思ってたでしょ」
 ナルトは頷く。
「だろうねえ~。三代目も情報操作で手いっぱいで中々こっちまで手が回らなかったみたいだし、アカデミー入ってからはイルカ先生がイロイロ写真持ってるけど、アカデミー前は撮ってくれる人もいないと思ってただろうしね」
「違うんだってばよ?」
 カカシは目元を柔らかく弓なりにして次のページをめくる。
「もう言っても大丈夫だろうから言っちゃうけど、ふふ、ナルト、お前が生まれて乳離れして、一人で立って歩けるようになるまで、誰が見てたと思う?」
 ナルトが困惑しているのを見かねて、サスケとサクラたちがアルバムを覗き込み、そして絶句した。
「……これ、シカマルよ」
 サクラが鋭く息を呑む。幼くも、どこか面影のある黒髪の赤ん坊は、確かに同期のシカマルだ。隣の写真には、四人の赤子。チョウジにいの、シカマルとナルトなのだと、言われずとも理解できた。
「こっちは……まさか、キバか。それで、これは……母さんと……」
 掌に乗るほどの子犬と、黒い犬と共に寝かされている二人の赤子を差して、サスケが目を丸くする。金色の髪の赤子を抱き、乳を含ませている黒髪の女性は、確かにサスケの母だった。
 ガイもまた知らなかったらしく、白い眼をした一歳ぐらいの男の子が金髪と黒髪の赤子を見ている写真に目を白黒させた。
「……これは……っネジか?ヒナタもいるな……!」
「ああ……なんだか思い出しました。そうでしたねえ……この時期、先輩が異常にさっさと帰ってた……」
 ヤマトが目を細めて懐かしい表情をする。
 曰く、一週間かかる任務を根性で一晩で終わらせただの、一ヶ月の里外任務を三日経たずに遂行しただの、おおよそ普通ではない行動だったとヤマトは述懐する。
「えっ、な、あんで。何でオレがみんなと写ってるんだってばよ!?」
「それはねえ……」
 カカシはくすくすと微笑みながら、かつての里の最重要機密を暴露した。
「表向き――九尾の器は孤児だった。でも、その子は四代目火影波風ミナトと、その妻うずまきクシナの愛息子だった」
 真実を知り得た者の誰が、その子の不幸を望むだろう。
 残された人柱力の赤子こそが、里を守り、里を慈しんで逝った二人の英雄の忘れ形見だと、生前のミナト、クシナと親交のあった者たちが一目見て分からぬはずがない。顔立ちは母のぱっちりと整った目鼻立ちを受け継ぎ、金髪碧眼の色彩を父から受け継いだのだと。
 若くして里の長になり、朗らかで優男で、天然のくせして頑固だったミナト。
 天真爛漫で太陽のように明るく、生命力に満ち溢れ、誰からも愛され、誰をも愛したクシナ。
 うちはミコトをはじめとする仲間や親友たちは、愛する二人の愛した遺児たる『うずまきナルト』を、どうにかして守りたかった。
「だけど、戦争も終わったばかりで不安定な情勢の中、殺そうと思えば直ぐに殺せる赤子の中に九尾を封印していることが万一里外に漏れれば、ナルトは他里に殺されかねなかった。そして『木の葉の黄色い閃光』と、『赤い血潮のハバネラ』の息子だと知れれば、仇として殺されるかもしれなかった。故に、ナルトは秘匿され、その中に九尾が居ることも、四代目夫婦の息子であることも、全てひた隠しにすると決めた……」
 カカシはさみしげに瞳を伏せた。
「殺されるよりはと思ったけれど、寂しくさせてごめんね、ナルト」
「ううん……今はもう、もういいんだってばよ」
 ナルトは首を振る。
「それよりも、俺ってばひた隠しにされてたはずのに、どうして?」
「ええと、まず、乳飲み子だったナルトはその頃すでに暗部だったオレに預けられた」
「ええっ!? 」
 ナルトが驚愕する。ヤマト以外の全員が、素っ頓狂な驚愕の声を上げた。
「な、ななな、なんでカカシ先生!? 」
「なんで赤ん坊を預けるのがよりにもよってカカシなんだ」
サクラとサスケが疑問を吐き出す。
「んー。オレのたっての希望もあったし、真実をしる者以外には預けられなかったこともあったし……まあイロイロあったんだよ。大変だったなあ……二時間おきにミルクと襁褓を変えて、夜泣きもしたし、熱が出たときはどうしようかと思った。ミルクは飲みすぎて吐き出すし、なっかなかゲップはしないし……」
しみじみと語られる身に覚えのない迷惑に、理不尽な居た堪れなさを覚えたナルトはもぞもぞと尻の座りを直す。
「でもさあ、ほら、やっぱり赤ちゃんは母乳がいいって言うでしょ? ナルトったらなかなかミルクは飲んでくれないし。どうしようかって悩んでたら、ミコトさんが火影屋敷に忍び込んできてね」
「……は?」
 サスケが突然の母親の登場にあんぐりと口を開ける。
「腕に赤ちゃん抱いて――まあサスケだったんだけど、『クシナに頼まれたから、ナルトくんの面倒見に来たわ』って。俺も暗部の任務と赤ちゃんの世話で流石にへろへろだったのもあって、押し切られちゃって……」
 はは、とカカシは笑う。
 当時、九尾の暴走の原因として監視されていたうちは一族が火影屋敷に忍び込むなど、粛清の対象になってもおかしくない。それでも、彼女は乳飲み子を抱えて火影屋敷の奥の奥、ナルトの部屋まで忍び込んできた。
 母親というものの強さ、そして女というものの本質的なたくましさに、カカシは体の奥にぴりりと張っていた変な緊張感が緩んだのだと言う。
「それで、ミコトさんの連絡で、絶対に裏切らないって太鼓判押してもらった人たちを呼んでもらってね。なんとかナルトは乳離れして、立って歩くまでに成長したんだよ。つまり、今のお前の同期のほとんど、ナルトの乳兄弟ってわけだ」
 なるほど、これは確かに、とんでもない秘密だっただろう――とその場にいた誰もが唖然とした。
「で、でもオレ、なんも覚えてないってばよ!? 」
「そりゃ、自分がたって歩く前の話なんて誰も覚えてないよ。一人でご飯食べられるようになってからは、オレはしばらく会うのを禁じられてたし」
 ナルトはすっかり酔いも覚めて、まじまじと何枚もの同期との写真に目を落とす。
 そんな縁があったなど知らなかった。
 知るはずもなかった。
 そんな幼い頃から、本当は愛されていたのだと、あの時の自分が知ればどれほど救われたか分からない。
 ――だが、カカシがこの事実を口にできたのは、柵も因縁も何もかもが全て終わった今だからなのだと、わからないナルトではない。
 サクラも、サスケも、黙りこくってアルバムを見つめていた。
 サイもまた、物珍しそうにじっくりと赤子たちの写真を見つめる。
 ガイとヤマトもちびりちびりと酒を煽りながら、子供たちが見つめるアルバムを横目に見ていた。
「カカシ先生」
 アルバムに目を落としたまま、ナルトはカカシの名を呼んだ。
「ありがとう。いっぱい、ガキの頃から今まで、ずっと、ありがとうだってばよ」
 目をそらしたままの謝礼に、カカシは笑みを深めた。
「クシナさんのお腹の中に居た子が立派になって、下忍になりたてだったおしゃまな女の子が五大国一の医療忍者になって、クソ生意気でお子様だったのが暗部の部隊長になって、冷めた顔して感情を押し殺してた子が心から笑えるようになって、ついでに女の子みたいだったのが今じゃ上忍師で下忍の子教えてて……、時の流れって偉大だね」
「だってばよお」
「ふふ」
「おいカカシてめえ」
「あはは」
「先輩そんなこと思ってたんですか!?」
「そうだな、カカシ!」
 ガイが親指を突きたてて笑う。
「お前は変わんないよねー」
「それは成長してないということか!? なんてことだ!」
「いい意味にとりなよ、ガイ」
いきり立つガイに苦笑して、カカシはふう、と息を吐いた。

 にわかに騒ぎ出し、賑やかになる酒宴はどんどん更けていく。
 赤い満月が天中に昇った。
 りいりいと鳴る鈴の音に似た虫の声に耳を傾けながら、カカシは開きっぱなしの障子の外を見上げた。

「いーい夜だ。なあ、リン、オビト。お前たちもそっちで元気にしてるか。先生やクシナさんもいるのかな」

 カカシの独り言に答えるように、二筋のそよ風がカカシの両頬をくすぐり、カカシはゆっくりと両目の瞼をおろした。
 最後に目に映るのは、賑やかな酒宴の席。大事な部下たちに、後輩、友人。
 自分はなんと恵まれていたのだろう。

 

「ああ……、いい夜で、いい人生だったよ。父さん」

 

「あれ、先生寝ちゃったの?」
「布団かけてやるってばよ、せんせー!せんせー!布団何処?」

おわり