より深く
揺さぶられてまた目を覚ます。先ほどと全く同じ構図である。だが、やはり彼の表情は暗い。疲れさえ滲んで見えた。
いまやあたりは繊月の夜並に暗い。互いの姿ははっきり認識できるので、ただの闇というわけではないが、最早見上げても海面は見えず、ほんの微かに海面から差し込むぼやけた光があるだけだ。
「暗いのう」
「いよいよ深ェっつうわけだ。ハァ……嫌ンなるぜ」
「やろうにゃあ」
好き好んで自分の心をさらけ出すものなどいるものか。心から同情して彼の頭を撫でる。陸奥守の掌にすっぽり収まるほどの小さな幼い頭はなんとも頼りなく揺れた。
「和泉の、おまん案内役やと言うたにゃあ。こういうのが幾つくらいあるか分からんがか。こがにこじゃんとあるがは聞いちょらん」
彼は首を振る。
「分かんねェ。オレの自覚してねえのまであったらどうしようもねえよ。これが千年越えの刀だったらどうなってたやらだな」
「……ほうかえ。ほいたら、ここの何処におまんの虚像が居るかわかるかえ」
「んー、多分な」
陸奥守の手を案内役が引く。
「こっちだ」
「……はよう、わしはおまんをおどろかせんといかんがよ」
「まったくだぜ」
彼の足取りは迷いが無い。
陸奥守は付いていきながら、事の起こりを思い出していた。
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