#11
──三年前の合同庁舎襲撃事件にて、殉職。
青山という暗号符を聞いた瞬間、霽月の脳裏に翻った一人の青年。
データの断片が霽月に突きつける真実に、霽月は言葉を失った。
「主?」
寝間着一枚で駆け寄ってきた蜂須賀が、凍り付いたように画面の前から動かない霽月を案じる声を掛ける。
第四群術使用許可を持つ審神者。霽月の閲覧できる情報では顔までは分からない。けれど、ひどく胸騒ぎがした。
月橘鏡の名を知る三日月宗近の主。神社から盗まれた神器の一つで、あれがなかったから霽月は利用価値がもはやないとして生き残った。それを知るのは最早、自分と他には。
──すまん、光風。すまない……。
「主?」
──たとえ青山にて野垂れ死んだとしても、俺は……償わなければならない。
夜陰に紛れ、逃げるように去って行く背中を、自分は鳥居の中からただ見送るほかになかった。呼んでも、叫んでも帰ってきてくれなかったひと。彼がいなくなってすぐに、霽月は政府に身柄を引き取られて審神者として教育された。
彼が何を考えていたのか、もう分からない。
でも──まさか。
──主の本当に守りたかったもの。
「主! いけない!」
「梧堂兄さん……? まさか、あの刀の主は兄さんなの……?」
ほろりと零れたその名に導かれるように、ぐわりと彼女の張った結界がひび割れる。