つきもの奉公

 

  • 序 蜻蛉切の槍

    昭和初期から戦争末期にかけての御手杵の話。捏造過多。

  • 一章 憑き物おとし

    うららかな昼下がりの帝都は人がごった返して賑わしい。赤煉瓦の東京駅の構内を抜けて八重洲の出口をくぐれば、帝都の高い空は澄み切って薄青に染まり、馬の肥ゆる季節の情緒を感じさせる。その空も、昔に比べれば随分と狭くなったと思う。空は高々と延びる建…

  • 二章 槍の奉公

    翌日、御手杵は再び洋装に身を包んで本多の屋敷を訪なっていた。昨日の今日で、松平家も本多家も驚いたようだったが、少しばかり無理を言って訪れた。「蜻蛉切に本当にもう憑喪神が憑いていないのか、我らの方法で確かめたい」そう告げると、本多の家の奥方は…

  • 三章 刀の役目

    蜻蛉切はどうやら沼津でつつがないらしい。そういう話を、質屋の鏡から風の噂で伝え聞くころ、戦火は音を立てて海を吹き渡り、いつしか幾度目かの、かの槍の切り落とした秋津が野原に空き地に飛び回る季節になっていた。晩秋の、弱々しい日の垂れ込めた昼下が…

  • 四章 役目と奉公

    けたたましいサイレンの音がついに聞こえて、屋敷はにわかに浮き足だった。そのころには御手杵はたいがい蔵にいて、蔵をでるのは力仕事にかり出されたときばかりになっている。空襲警報で逃げ出す家中を案じながら、蔵の中でまんじりとせずにほかの憑喪神と共…

  • 終 御手杵の槍

    うららかな春のそよ風が、頬をくすぐる心地よさにうっすらと目を開いた。「これが御手杵かあ」声がする。自分に目があることを何となく感じた。ガラスケースの向こうに自分をみる瞳がある。とろりと柔らかく暖かな泥のような微睡みの心地よさに、御手杵はほほ…

 

 

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