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「じゃあ、センパイ──あいつは別ルートですか」
二番島の港で待機していたスモーカーは葉巻の煙を風に散らされながら大目付に尋ねる。
空はどんよりと薄曇りで、東の空からほの明るい朝日が一日を始めようとしていた。風は強く、雲は早足で秋島を駆け去ろうとしている。
「ああ。……他言無用だぞ」
「分かってますよ。あの人のいつもの任務だ」
「人には向き不向きがあるからなア」
日の昇る水平線を眺めながら呟くセンゴクと同じ方に目を向けてスモーカーは肩をすくめた。
「油断のならねェ海兵だったよ。死んだと言ったのはアンタだったはずだ、センゴク大目付」
「色々あるのさ」
スモーカーは風に吹き散らされるほどの小さな声で囁く。
「あいつの郷里とか家族とか……ミニオンの任務とかか」
沈黙は重たく二人の間に落ちる。それが肯定か否定か分かるほど、スモーカーはこの大目付のことを知らぬ。しかし、自分の知る海兵がこの男を心から慕う腹心の一人だったことは知っている。
このまま沈黙が続くだろうと思っていた矢先に、ぽつりとセンゴクが呟いた。
「甘いと思うか?」
スモーカーは舌の上で葉巻の煙を転がした後、首を振った。
「あの人があの人の〝正義〟を裏切ったと思ったことは一度も無ェ」
ちらりと横を見れば、陽光を見るセンゴクの目がわずかに緩んでいた。今度こそ穏やかな沈黙が二人の間に流れていく。
沈黙を動かしたのは、威勢の良い部下の声だった。
「スモーカーさん! センゴク大目付! 私以下部隊の準備完了しました!」
「スモやん! 視察部隊準備できたぜ!」
「証拠見つけてぶっ壊せばいいんだよなァ!」
「まかせろォ!」
連れてきた海兵のうち5人ほどがたしぎの後ろでわいわいと騒いでいる。いつもよりはしゃいで居るように見えるのは、たしぎに選ばれた優越感からだろうか。
昨日視察に連れて行く部下を選べとたしぎに告げたときにも大騒ぎをしていたと思い出す。
「騒ぐな馬鹿ども。見つけたら好きにしろ」
スモーカーは煙を吐き出して海兵を黙らせる。部下の群れの中にテンションが低そうな部下を見つけて首を傾げる。
「……ん?」
海兵ならばこの時間は朝寝坊の時間だ。ふと気に掛かって声を掛けようとした時、焦ったようなたしぎが声を上げる。
「スモーカーさん何してるんですか、四番島行きの船が出ますよ!島親さんの部下の方がお待ちです。早く乗ってください!」
「ああ、わかった」
スモーカーはため息を吐いてタラップを上がった。その次に大目付が続き、部下を引き連れてたしぎも乗り込む。
海兵達がはしゃぎながらタラップを上がる中、それに紛れるように一人の海兵が帽子を深く被り直していた。
→五章 歩き出して