五章 歩き出して - 11/12

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 三十分ほどかけて海面よりも遙かに下にあるだろう最下層にたどり着いた。四番島にあったものとよく似た地下空洞だ。
 ところどころは神殿のように手が加えられ白っぽい石のせいかほんのりと明るかった。
 いくつもの細い地下洞窟がここに繋がり、そして去って行く。ロシナンテが下ってきた階段はその一つを加工したものだったのだろう。遠くに海の音さえ聞こえる。
 その最奥には閉ざされた扉があった。
 ロシナンテが見上げるほどの大きさだ。ロシナンテはそれを扉だと思ったが、扉ではないのかもしれない。
 把手もドアもない大きな壁画の中の彫刻の一つとして鍵穴があるだけなのかもしれなかった。
 ロシナンテにはてんで分からないが、もしかすれば空白の百年よりも古いものにも見える。
 しかしその鍵穴こそがロシナンテが持ち、そしてこの〝?〟の家に連綿と伝えられてきた鍵の穴だと知っていた。
 ロシナンテは鍵をその鍵穴にはめ込んで回す。歯車が回り、地面が震えるような、何かがはめ込まれていくようなガコンという音。ドウドウと響く水音。
 ひときわ大きな石がぶつかる音とともに、扉が大きく口を開ける。
真っ黒く口を開いた壁画。奥からどうどうという水音があっというまに迫ってくる。
「成功ッ!」
 ロシナンテはそれを確認すると一目散に階段へと駆け戻り──階段に足を一歩掛けた瞬間ずるりとすっころぶ。
「しま──ッ……!」
 受け身を取ろうと力を入れた足がずきりと痛んで滑る。傷口からの痛みに足が竦んだ。ぐらりと無茶を重ねた意識が一瞬火花のようにばちばちと爆ぜる。
──ドジッた……!
 そう思った瞬間、もう既にロシナンテの目の前には壁画から吐き出された黒々とした地下水流が迫っていた。