ピクニックのような食後で賑わしい甲板で軍曹が曹長を呼び止める。
「曹長」
「なんだ、軍曹」
「あんた、この海賊団知ってるかい? あたしの記憶にはなかった……。偉大なる航路の後半の海に来てるなら知らないはずが無いのに」
軍曹に言われて曹長は帆に描かれた麦わら帽子を被った髑髏のジョリーロジャーを見上げる。
「いや。知らねェ」
曹長ははっきりと首を振った。その否定は予想していたのだろう、軍曹も頷く。
「やっぱりあんたまで知らないか。……麦わらといえばあの男だけど」
「ロジャーはまだ後半の海にゃ入ってねェぞ。入ってたらおれが知らねェわけがねェ」
「びっくりした。聞いてたのかい」
唐突に口を挟んだ伍長に軍曹がぎくりと肩をすくめる。
伍長はさして気にしていないようで歯を見せて笑った。
「悪いやつじゃねェからいいじゃねェか! おれあの船長好きだ」
「海賊に気を許しすぎだ」
曹長に小突かれても伍長は声を上げて笑うばかりだった。
「あんたがそこまで海賊に気を許すのも珍しい。……あァ、そういえば少しあんたに似てるね、あの船長。お前の血族かい? 兄弟とか」
軍曹の指摘にきょとんとする伍長は想像だにしていない様子だった。その伍長にマストから伸びた腕がぐるぐると巻き付く。伸びた腕をはっきりと認識して伍長は目を輝かせた。体に回された腕をゴムのように伸ばして伍長が感心した顔をするのを見て、ルフィは満足げに笑う。
「わっ、何だ! すげェな! 悪魔の実か!?」
「おう!」
「お前強いんだろ? 手合わせするか?」
拳を固める伍長にルフィはにっと笑って首を振った。
「お前ら客だし、今はやらねェ!」
「そっか! じゃあ次会ったときは敵同士だし、思いっきりやろう」
「ししっ、いいな。手加減はしねェ」
それを呆れながら見ていた曹長と軍曹にナミとチョッパーが荷物を持って近づく。曹長たちの銃や服を持ってきてくれていた二人に礼を言いながら受け取る。
「もうちょっとで島に着くはずなの。でも霧の海域を抜けないとわからないわ」
ナミは不安そうに肩をすくめる。
「怪我はできる限り治療したけど、万全じゃ無い。軍に戻ったらちゃんと手当してもらってくれ」
「ありがとう、ドクター」
曹長と軍曹はにこにこと笑ってチョッパーの頭を撫でる。チョッパーは子どもじゃ無いといいながらもまんざらではない様子だった。
「あっはっはっは!」
「ぶわっはっはっは!」
甲板に伍長とルフィの笑い声が響く。珍しく伸びた腕が絡まったルフィを解こうとして余計に絡まったらしい。よく似た顔をして笑っている。
「……なんだか兄弟みてェだな。エースに似てるからかねェ」
片付けを終えてキッチンから手を拭きながら出てきたサンジがぽつりと呟く。階段に腰掛けて目を閉じていたゾロがわずかに目を上げてちらりと伍長とルフィを見やって鼻を鳴らした。
「あいつの兄弟は二人だろう、目ン玉入れ替えろクソコック」
「ンだと! オロスぞクソマリモ!」
「──でも確かにルフィがあんなふうなの、エースが来たときみてェだ。サボに対してもあんなかんじだった」
サンジの手伝いで後片付けをしていたウソップがサンジの後ろから顔を出してぽつりと呟いた。
「よっぽど気があったんだなァ」
しみじみと頷くウソップにサンジとゾロの言い合いが止まり、どちらともなく肩をすくめる。